ジェイルハウス・ロック
「……マジ最悪」
「……うるせぇ。聞き飽きた」
「夏希 どうにかなんねぇのかよ!?」
「そう言われても鍵、左京さん持ったまま出かけちゃったみたいだし…無理」
「お前…笑ってんじゃねぇーぞ」
「インステアップしてあげようか?」
笑いながらそう言うと本気で怒っているのか睨まれたのでこれ以上言うのはやめる。だけどまさか荒療治とはいえ、2人の手を手錠で繋ぐとは思わなかった。
「夕方まではそのままで過ごすしかないな」
「おつかれッス」
「ちっ…」
「うるせぇ。耳元で舌打ちするな」
「俺だってしたくてしてんじゃねぇよ!」
「うるせぇ。耳元で怒鳴るな」
どんどんイライラしていく万里と十座に周りも呆れ返る。よくもまぁこんなにも喧嘩する事があるなぁと感心しかない。2人ともストレスが溜まりそうだけど…こんなので仲良く…なるのだろうか?
「まぁまぁ、落ち着いて」
「俺、飲み物でも持ってくるッス!」
毎日この調子だけど余計酷い気がする…めんどくさいので早く左京さん帰ってきてくれないかなぁ…
「おい、ふざけんな。俺は台所に行きてぇんだよ」
「俺は、便所に行きてぇんだよ」
「あぁ?」
「あぁん?」
「何、何、どしたん?」
「ケンカだ~」
カズくんと三角が止めに入るのはいいけど正直関わらない方が身のためだ、精神衛生上よくない。
「俺は腹減ったんだよ!」
「便所だっつってんだろ!」
「あ~そういえば、今稽古のイッカンで手錠つけられてんだっけ?んじゃさ、オレ代わりにキッチンからなんかおやつ持ってくるよん」
「じゃあ、三角は代わりにトイレ行ってくる~」
「待てやコラ!」
お笑いでも見てるようなコントに思わず笑ってしまって十座と万里から睨まれて慌てて逃げる。怖い怖い…見ない方がよかった。
今日は臣がご飯作ってくれる日でとても美味しかった…談話室でぼーっとテレビを見ているとCMが流れる…あぁっ!!しまった…今日は限定のおもちグッズがコンビニで販売される日だった…忘れてた。
「2人ともなにしてんの?」
「左京さん待ってる」
「……あと少しだろ」
玄関で仁王立ちしている万里と十座はどうやらこのまま左京さんが帰ってくるまで待っているらしい。敵を待ち構える武士のようで怖い。
「お前どっかいくのか?」
「うん、ちょっとね」
寮から出て少し早歩きでコンビニに向かえば、無事に最後のひとつを手に入れて早足で帰る。もうすぐ寮だはやくゼリーを食べたい。
「やっと、会えましたね!」
「え?」
そう言われ振り返ったら急に手を掴まれて脚を撫でられる。気持ち悪くなって思いっきり手を振り払うが振り払えず、よろける。
「ずっと、ずっと貴女の事を見てたんですよ?」
「あの時のストーカー…」
1年ほど前にストーカー被害にあり警察にも相談したけれど相手にされずで悩んでいたがこのMANKAIカンパニーに来てから全く被害がなくて忘れていた。
「や、やめて離してっ!!やだ!!」
「どうしてそんな事…貴女…もしかして他の男と!!」
「違う!!話して!!万里っ!!万里っ!!万里お願いっ!助けてっ!!」
気付けばそう叫んでいて聞こえないかもしれないけれど大声で叫んだ。
「摂津っ!どうした…」
「夏希 っ!!てめぇ…」
「万里っ…助けてっ」
私を無理やり抱き寄せた男は万里と十座を見るとすぐさま逃げ出した…そんな男を万里と十座は走ってお追いかけて行った。
「夏希っ…怪我!どうした!?」
「臣っ…臣っ…」
臣が私に駆け寄ってきてお姫様抱っこして寮の自室へと連れていってくれる。怪我を確認してから救急箱を取りに戻ってきた臣の表情が怖い。
「誰にやられた?」
「実は…前に…ストーカーにあってて…ここに引っ越してからは無かったから…その安心してた」
「わかった…ちょっと待ってろ監督呼んでくる」
「いい!大丈夫、大丈夫だから…心配掛けたくないの…お願い」
そう言って臣を引き止めていると、部屋には怖い表情の左京さんと十座、万里が入ってきた。
「はぁ…怪我してんのか…。万里、十座てめぇら犯人追っかけ回すのはいいが、夏希 をほって行くな」
「いや…それは…繋がれてたから…しゃあないっすよ」
「おい、お前…大丈夫か?」
「大丈夫…万里、十座…心配かけてごめんなさい…」
「はぁ…気をつけろよ。この辺りも最近物騒だな…暫くお前は護衛ありだ。出かける時必ず誰でもいいから連れて行け。それと、お前はもう少し迷惑かけろいいな?女はすこし迷惑くらいがいい覚えとけ」
「左京さんの言う通りだな、俺も付き添うから遠慮なく言ってくれ」
「まぁ、万里と十座のお陰で犯人は捕まったわけだし、外してやる。手出せ」
せっかく外してもらったと言うのにまた喧嘩している2人は学ばないのだろうか…と思う。だけれどそれは私も同じであれだけ注意されたのに夜に1人で出かけた私が悪い、そして迷惑を掛けてしまった…。
「おい、お前は悪くないとは言わないが、1人で出かけたい時もあるだろ、だからその時はちゃんと言え」
「ありがとう…ございます」
私の頭を優しく撫でた左京さんは少し笑って部屋を出ていった。