ジンジャークッキー
「んで、どうなんだよ?1週間くらい経ったんじゃねぇーの?」
「うん、経ったよ。どうってなにが?」
「上手くやってんのか?」
「うん、外国人留学生のシトロンさんと社会人の茅ヶ崎さんが入団してね稽古もみんな楽しそうにやってるよ」
いつもお弁当を作っているけどたまには学食を食べたいなぁと思い万里と昼食を学食で食べる。もちろん、みんなのお昼ご飯と弁当は朝に作ってきたし、佐久間君と真澄それに至さんの分のお弁当はきちんと作ってきた。
「ふーん」
「何?」
「にしては、お前なんか悩んでんの?」
「え?」
「え?じゃねぇーよ。なんか悩んでんだろ」
「いや…うーん、うん。悩んでるっていうか…劇団員の中に脚本を書いてくれる人がいて1週間で上げなきゃいけないんだけど…何か出来ればなぁって…ご飯も食べてはくれてるんだけど…日に日に見なくなっていくから心配で」
脚本作成から完成までの与えられた期間は1週間、支配人曰くプロの脚本家でも1週間で脚本を書き上げるのは相当な無理があるらしい、それに加えて今回のは脚本にかかっていると言ってもいいほどプレッシャーがかかっている。
日に日に窶れ、食事こそは食べてはくれているが寝れてないようで本当に心配なのだ。
「ほー、差し入れとか?」
「差し入れ?珈琲とかはよく差し入れしてるよ?あぁ、でも糖分摂取大事だから軽く食べれるものでも作ってみようかな」
「おう、まぁいいんじゃねぇーの?食わねーなら貰うぞ」
そう言って万里は私の唐揚げをひとくち食べる。あ、最後の1個残してたのにまぁいいや。美味しそうに唐揚げを食べる万里の表情が急に曇った。
「碓氷さん!あっ…と、取り込み中だった!?ごめんねっ!またっ!」
「あ…うん」
肩をぽんと叩かれ振り返れば委員会で一緒だった男の子…確か隣のクラスだったっけ?忘れちゃったけど…なにか約束してたっけ?まぁいいや、めんどくさい。そう思っていれば、不機嫌な万里と目が合った。
「万里、顔、怖いよ?」
「うるっせ!だいたいお前は色んな奴にいい顔し過ぎなんだよ、だから悪い虫寄ってくんだ」
「万里の顔が怖いからみんな逃げちゃうんだからいいじゃん。私なんて万里のせいで怖がって近寄られないんだからね」
「はぁ?俺のせいにすんな。お前が広く浅くしかつるまねぇからだろ」
「まぁ、そうなんだけど。次喧嘩したら、私万里と友達辞めるからね」
「はぁ!?んで知ってんだよ!」
「噂は直ぐに耳に入るのよ、今度約束破ったらもう二度とデートしてあげないから」
トレーを持って返却口に返して万里をほって食堂を後にする。万里はなんでも絶対に1番にならないとダメなタイプで飽きたらまたすぐに手を出す、唯一本音で話せる友達なんだから止めたいけど、彼は止まらないだろう。
ほんと、乾きに飢えた野獣みたいなんだから。
そんな万里の事を思い出しながら一向に喧嘩を辞めてくれないことに腹が立ってバンバンッとクッキー生地を叩く。
「真澄くん…夏希ちゃんどうかしたのかな?」
「姉貴は怒ってても可愛い」
「え?怒ってるのにクッキー焼いてるの?」
「姉貴のストレス発散はクッキー焼くこと」
「変わったストレス発散方法だね…」
クッキー生地をオーブンに入れて少し経った頃にキッチンにひょっこりとシトロンさんが顔を出す。そうだ、皆でお茶してもいいかも。
「夏希いい匂いするヨ?ナニ作ってるネ?」
「ジンジャークッキーです」
「ジンジャークッキーネ?」
丁度チンと音が聞こえオーブンから取り出せばすごくいい匂いがする。うん、今回も上出来だ。美味しそう紅茶でも入れて一緒にティータイムだ。か
「はい、シトロンさん味見しますか?」
「ウン!味見するネ!!」
あーん、と口に出来たてのクッキーを運べば鬼の形相で真澄が飛んできた。怖い…なんかめちゃめちゃ怒られたし。
「おお、クッキー?どうしたの?」
「茅ヶ崎さんも、どうですか?皆でティータイムです。それに…ちょっと綴さんが心配で、ご飯は食べてくれてるみたいなんですが…片手間に食べれて、糖分摂取できて…それに最近まだ肌寒いので…ジンジャークッキーを差し入れに作りました」
「じゃあ、貰おうかな。綴も喜ぶと思うよ、夏希ちゃんはお嫁に行くのが早そうだ」
「はぁ?許さないから、そんな奴いたら殺す」
「ちょっと!真澄くん落ち着いて!」
稽古終わりに皆でティータイムを楽しむ。紅茶とクッキーを持って部屋をノックすれば綴さんは眠っていた。机にクッキーと紅茶を置いて、自室から持ってきたブランケットを掛けて部屋を出る。
「あ、夏希ちゃん、綴君どうだった?」
「今は仮眠してるみたいです。あ、そうだ良ければいづみさんも一緒にティータイムどうですか?クッキー焼いたんです。この時期に体を冷やすと体調不良にも繋がりますから」
「クッキー!?いいの?ありがとう!夏希ちゃんは、直ぐにお嫁に行けるね!私は…カレーしか作れないから…あぁ…こんな可愛い妹欲しかった…」
「大丈夫ですよ!真澄と結婚したら私といづみさんは、本当の姉妹になれます!」
「え?えぇ!?………やっぱり姉弟だ…血は侮れないなぁ…」
いづみさんも交えて一緒にティータイムを楽しんだ。
美味しいと言って貰えて嬉しい…殆どストレス発散に作ってしまったので多少の罪悪感はあるけど…余った袋で可愛くラッピングして学校のカバンの中へとしまう。この、アイデアをくれた万里に感謝だ。
今朝、学校に行けば不機嫌そうな万里が私の机で突っ伏していた。髪は元気なさそうにしょげていて、いつもの勝気はどこへやらだ。ちょっと可愛く見えて頭を優しく撫でる。
「そこ、私の席」
「うるせぇ、もう友達じゃないんだろ」
「正当防衛なら仕方ないよね、怪我見せて」
「ちっ…んだよ。最初からそう言えよ」
「喧嘩ふっかけるのは辞めてねって言ってるの。だけど、正当防衛は仕方ないよね。万里って喧嘩売られそうな顔してるしさ?あ、沁みるからね」
「はぁ!?つッ!!」
「今日は機嫌いいから、良かったね。あと、お礼のジンジャークッキーお裾分け、私駅前のケーキ屋さんのミラクルうさたんケーキ食べたい」
「はぁ?どんな名前だよ!」
「えー?美味しそうじゃん」
「お前の顔に似合わねぇ名前だな」
「うるさい」
大人しく座って笑う万里の頭をくしゃくしゃにすれば怒ったように私の頭をくしゃくしゃと同じように撫でられた。