不揃いなバディ

「じゃあ、今日はここまで。明日からはエチュードの稽古を始めるからこの紙に書いてあるセリフを各自覚えてきて」

「自分の役だけでいいのか?」

「うん、まずはね。後々ローテーションでやってもらうけど」

「やるなら、複数のパターンを考えさせた方がいいんじゃないのか?」

そろそろ稽古が終わるだろうと思い、片付けの手伝いに来たはいいが練習は上手くいってないのか少しよそよそしい感じがする。春組、夏組と明るくて元気いっぱい…悪く言えばうるさいと感じた稽古だったから余計なのかもしれない。

「で、いいよな、リーダー?」

「あ?いいんじゃないっすか。ってか、俺に聞かなくてもいいでしょ、別に」

「てめぇがリーダーだろうが」

「コーチが2人いるようなもんだし、リーダーはなんもしなくても大丈夫だって」

コーチが2人…たしかに左京さんってどっちかといえば団員より指導する側って感じだけれど、人一倍MANKAIカンパニーに思入れがあるからこそ…と思うんだけれど。

「そういう問題じゃねぇーだろ」

「へいへい」

「はーい、それじゃ片付けしてまた、明日ね」

解散となった稽古部屋に残り片付けをする。ミーティングはしないようでブツブツと文句を言う万里に呆れたが私が言ったとて響かないだろう。リーダーとしての自覚も芽生えてないようだといづみさんも心配してたし…

「お疲れー」

「綴?どうしたの?」

「秋組脚本の相談がてら見学してて、さっき監督と話してたとこ」

「そっか~そんな時期か…」

「支配人から初代秋組は身体能力に長けた役者が多かったらしくえ派手なアクションがウリだったって聞いてさ…今回もそれに決まった。万里が主役で決まりは決まりなんだけど…」

「もしかして、十座?」

「あれ、監督から聞いた?」

「んーん、いづみさん悩んでたから。万里1人に任せるのは不安かなぁって…」

「最近夏希 は監督に似てきたな~、まぁいいアイデアあるから俺に任せて」

「楽しみだなぁ今回は差し入れ多めに作るね」

「真澄に殺されそうだな…」

相変わらず、万里の芝居への熱意が上がることも無くリーダーとしての自覚が芽生えることも無く1週間が経った頃だった。毎日のようにシトロン、至、万里が楽しそうにゲームに夢中になっているイベントがあるのは分かるけどよくもまぁ毎日毎日飽きないでやってられるなぁと感心する。

エプロンを付け直し、キッチンに入ればにこやかに笑う臣が入ってきた。

「悪いな、片付け」

「んーん、こちらこそお茶碗片付けてくれてありがとう。うーん…明日の晩御飯どうしようかな」

「ん?明日は、俺が作るからゆっくり休んでな」

臣が皆に何が食べたいかと聞き込みすれば安定のお肉だそうで、いづみさんはもちろんカレーと答えたが案の定却下をくらっていた。

「じゃあ、今夜スペアリブ漬け込んで前菜は生ハムのアボカドチーズ巻きにしよう。監督と夏希 にはカルボナーラにしようか」

「女子力高いね!?」

「どっかのカレー屋とは大違いだな」

「何か言いました!?カレーについてなら1時間貰いますけど!?」

「1時間で済むんですか…それ…」

「いらん」

ガチャと勢いよく扉が開いて談話室に綴がゾンビのような表情して入ってきた。毎回おなじみ台本が上がったようで床に倒れ込む。

「平気だよ。眠ってるだけだから、脚本出来たかな」

「はぁ?何言って…」

「これ、握りしめてるの、脚本ッス!」

優しく髪を撫でれば私の手を握りしめて眠る。そんな綴が持っていた脚本を近くにいた臣に手渡す。

「秋組旗揚げ公演…なんて素敵にピカレスク…?」

「書き上げて力尽きたのか」

「ムカつくから部屋運んどくか」

「いつも夏希 の膝枕ズルいネ!ワタシも手伝うヨ!」

「それな」

「頑張ったんだからいいじゃん…まぁでもまた真澄がうるさいから早く部屋に運んであげよっ」

「じゃあ、悪いんだけど3人とも綴くんのことよろしくね」

「えんやこらダヨ」

「シトロン、気をつけてね」

綴が深く眠ったのを見計らって部屋から出てきた。主に真澄に追い出されたのだけど…談話室にもどるといづみさんが、秋組の台本をくれたので甘えてゆっくり読ませてもらう。

綴が言ってた通り初代秋組を踏襲して、ギャングスターのアクション劇で今の秋組にはピッタリ…だけど、この劇は万里と十座の息が合わないと総崩れになってしまう…チームワークを求められる劇になってるけど…大丈夫かな…?

「はぁ…多少の荒療治は必要か、迫田!」

「へい!」

「アレよこせ…荒療治って言っただろうが。2人とも手、出せ」

ぎゃあぎゃあ怒る2人に左京さんは荒療治と言って手錠をはめ込んだ。

不揃いなバディ

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