芝居へのガチ

「んだ、コラ?」

「んだ、てめぇ」

「やんのか、コラ」

「ジャマだ、てめぇ」

私もいるのにこの有様である。アンタ達バカップルなの?喧嘩中のカップルなの?なに、ポケ〇ンなの?目が合っちゃったら即勝負なの!?ええ!?ああ、マズイイライラしてきちゃった。

「さっきからずっと二単語で話してるッス」

「ある意味高度な会話じゃね!?」

「さんかく!さんかく!」

「それ一単語ッス!」

「冷やかしなら失せろ」

「てめぇの指図は受けねぇ」

「てか、万里演劇興味ないって言ってたじゃん。なに、今更来たの?」

「うるせぇ、お前には関係ない」

「あっそう!2人ともこっちに並んで待ってて!ああ!もう!!向かい合わなくていいから!!なんなの!?どんだけ好きなの!?ラブラブカップルか!」

「夏希が壊れた。情緒どこに置いてきたの?」

「幸はいつも辛辣だねぇ」

「褒め言葉どうも」

「褒めないからっ!」

「カントク、オーディションは何時に開始するのかな?」

「そろそろ始めようとは思ってるんだけど…」

いづみさんがそう言ってドアを見つめた。左京さん…来てくれないのかな?

「誰か待ってるとか?」

「夏希さん、そういえばスカウト枠のもう1人って誰だったんですか?」

ドアが開いて少し笑った左京さんが来た。主役は遅れてやってくる…そんな言葉を思い出した。かろうじて5人は集まったみたいだな、だなんて皮肉を言いながらも嬉しそうに階段をおりる。

「左京さん!」

「よぉ、来てやったぞ」

私の頭をくしゃくしゃと撫でていづみさんに向き直る。

「あ、ヤクザだ」

「ヤクザ!?」

「よかった!来てくれたんですね!」

「って、もしかしてスカウト枠って左京さんの事なんですか?」

「そうだよ?」

「お前…カントクに似てきたな…それにしてもヤンキーとヤクザってずいぶんガラの悪いメンバーが揃ったな」

「だ、大丈夫なんスかね…?」

「まぁ、人は見かけによらないから」

妙に説得力のある臣の言葉に確かに…太一はと頷いた。左京さんは昔からこのMANKAIカンパニーの事を見守ってきた人だといづみさんから説明があれば皆が左京さんを見る目が少し変わったような気がした。

「御託はいい、俺は芝居をしに来た。さっさとオーディションを始めろ」

1人ずつ簡単に自己紹介をしてセリフを言ってもらう。臣はえーっと…葉星大学3年生…と。経験がない分少し固い…緊張しているからかな…演劇の勉強は今までやってこなかったのかな…だけど、声量あるから声がよく通る…迫力のある演技ができそう。

太一はっと…欧華高校2年…演劇経験はなしっと。いづみさんは違和感に気付いたようで太一に聞くがどつやら素人らしい。妙にこなれている…器用な性格ななのかもしれないなぁ。とメモに書き込む。

「それじゃあ、えーとそっちのヤンキーくんふたりはどっちからやる?」

「んじゃ、俺」

「何勝手に決めてんだ」

「ああ?早いもん勝ちだろ」

「んなの、誰が決めた」

「はいはい、それじゃあつり目のキミ自己紹介からお願い」

摂津万里、花咲高校3年演技の経験はなし。ついでに演技の興味…じゃなかった、真面目にかかなきゃいけないのに…パキッとシャープペンのしんが折れてしまった。万里はさらっと上手にこなしたそして上手いのも余計腹が立つ。

「それじゃあ、次はオールバックのえーと、十座くん?」

「兵頭十座、欧華高校3年演劇はやった事ねぇ」

これは…ちょっと…なんというか…大根だな…。演技できない私が言うのもアレだけど。

「ぶっはははは!んだ、それ!?下手すぎ!ふざけてんのかよ!?あははは!腹痛てぇ」

「万里黙って」

「十座くんも喧嘩はダメだよ!」

「下手なのは分かってる。でもどうしても芝居がやりてぇ…俺を劇団に入れてくれ」

万里にバカにされてもそんなの気にしないで頭を下げた。十座くんは本気で本当に演劇がやりたいんだ。凄い…かっこいいな。

「芝居で1番大切なのは芝居への気持ちと向上心、歓迎するよ」

「いいのか?」

「大丈夫!大根を改善するための練習メニューのストックはいくらでもあるから!」

「よろしく頼む!」

「おいおいマジかよ、そんなレベルでも入れんのか?」

「ま、そこそこ器用なだけで熱の無いやつよりマシだな」

「……あ?それ誰に言ってんのオッサン」

「……てめぇこそ、誰にメンチ切ってんだ?」

うわぁ…こっちでもバチバチだ…ほんと万里は気に入らない人いたらあちらこちらで喧嘩売るから…全くもう。困った奴だ…めんどくさい。

「最後に左京さん!お願いします」

「古市左京だ、演劇は子供の頃に少しだけ」

そう言っていたからブランクがあるのかと思いきや全然ブランクを感じさせない演技で驚いた。左京さんはきっと即戦力だろう。

「はい!これで課題は終わりです。結果は5人全員合格!」

「店員ピッタリだしな」

どうも、ガラの悪いメンバーが集まったと幸がボソボソと話す。

「兵頭が受かるくらいじゃ誰でも受かるわな」

「てめぇ、芝居に興味なんかこれっぽっちもねぇだろ、辞退しろ」

「はぁ?おめぇみたいな大根よりよっぽどマシだろ、おめぇこそ辞退して畑に帰れ。身の程知らずが」

「んだと?」

「ちょっと、2人とも喧嘩は」

万里と十座くんはいづみさんの言う事も聞かずそっちのけで言い合う。あ、左京さんの眉間にどんどんシワがよってきたマズい、雷が落ちる。

「うるせぇ!ガタガタ言ってんじゃねぇ!監督が全員合格だって言ってるだろうが!黙って従え!」

左京さんに一喝され黙り込む2人…

「ヤクザッス…」

「ヤクザだねぇ…」

「歓迎ムードで一瞬忘れてたわ」

「そ、それじゃあ、みんな劇団のシステムを説明するから寮の方に移動しようか!」

さっきは左京さんのお陰で落ち着いたけれど…今までの組の中で1番険悪なムードかも…

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