秋組オーディション
「カントクさん、今回もスカウト枠の人はいるんですか?」
「夏希ちゃん至っての希望で一応2人声かけてみたよ」
「夏希、オレたちの知ってる奴か?」
「えーと…うん。1人は来てくれるかわかんないけど」
左京さん来てくれるかな…来てくれなかったらどうしよう?なんなら強引に進めちゃっても…いやそんな事したら殺されそうで怖い。流石にそれはやめよう。
夏組オーディション時に手伝ってくれた春組は今回お休みで夏組の皆が秋組オーディションのお手伝いをしてくれている。
「さんかくっぽい人来るかなー?」
「どんな人だよ」
「顔が三角形っぽい人に期待!とりま待ってみよー!」
暫くたった頃だった扉が開いて、目立つ髪色の男の子が元気よく入ってきた。
「こんちはーッス!」
「失礼します」
「あ、来たーー!」
「いらっしゃいませ!オーディション会場はこちらになります!」
「スカウト枠ってカメラマンか」
「あ!おみみじゃん!」
「ん?みみ…?俺の耳がとうかしたか?」
「伏見臣くんだから、おみみ!」
キョトンとした臣がおかしくて思わず笑ってしまった。確かに、カズくんはあだ名つけるの好きだしそれも突拍子もないあだ名をつけるからそんなふうになっちゃうのも無理はない。
「……それは俺のあだ名なのか?」
「そ!スカウト枠っておみみのことかー!ヨロ!」
「よろ?」
「よろしくねって意味だよ。来てくれてありがとう」
「こちらこそ、よろしくたのむ」
「それで、そっちの君は?」
「あ!俺っち七尾太一ッス!演劇経験全くなしだけどとにかくモテたくて来たッス!」
「それなー!」
「JKにきゃあにゃあ言われたいッス」
「わかるー!俺三好一成ヨロ!」
「ヨロッス!」
軽い…カズくんとノリが一緒だ。横にいる幸の表情がみるみる曇っていく。きっと言いたいことたくさんあるんだろうなぁ…なんとなく気持ちは分かる。
「太一と一成でワンワンコンビか、知性も品性もオール1のバカ犬…と」
「あー…言っちゃった…」
「あ、あの!ゆっきーさんですか?よろしくお願いするッス」
「髪も顔も真っ赤だね」
「夏希の言う通りだねー!」
「言っとくけど夏希は女だけど、隣にいるこいつはこう見えてただの底意地の悪い男だからな」
「なんか、よけいなもんくっついてるんだけど」
「男!?マジッスか!?」
そう言われた太一くんは項垂れている。劇団泥沼恋愛劇になんてしんでも巻き込まれたくない…私なら絶対嫌だ…案外太一くんって乙女願望があるのだろうか?ちょっと面白い子だな。
「そんな準備要らないから…」
そんな光景に椋とくすくすと笑う。どうやら、太一君は天馬と同じO高の生徒だそうで仲良くなれそうだ。
「それじゃあ、臣くんの志望理由も聞かせてもらえるかな?」
「俺は、役者になるのが夢になったんだ」
なった…少し気になる言い方だな…いづみさんも同じことを思ったようで顔を見合わせた。前から少し含みのある感じだったけど詳しいことは話せないのかな?まぁ、でもここには夏組もいるし…話せないこともきっとあるだろう。
「おい」
「ひゃっ……あっ…」
「お前っ…オーディション会場ってここか?」
「何このテンプレヤンキー、夏希知り合いなの?」
「へ?あ、うん!ちょっとね!」
「十座もオーディション希望?」
「ああ」
椋が声をかけようとした途端十座は椋に対して怒った…なんでだろう?もしかして知り合いとか…分からないけれど椋が驚いた表情で謝っていたのでそっとしておく。なにもなければいいけど…いづみさんの声で太一、臣、そして十座が椅子に座る。
「さ、さ、こっちです。オーディション希望者を連れてきましたよ!」
「いや、だから、俺はそんなもん」
「てめぇ、なんでここに」
「はっ………なんでここに」
「それはこっちのセリフだ、ボケ」
「ああ?」
「万里喧嘩売ってんの?」
「ああん?」
「ひーーーっ!!夏希ちゃんのお知り合いですか!?3人とも喧嘩しないでください!」
「ちょ、ちょっと!キミたち!?夏希ちゃんまでどうしちゃったの!?」
「……穏やかじゃないな」
何故かここに万里と十座がやってきた。十座は何故かわからないけど、万里は絶対十座目当てである。それに奴は私に謝ってもこないし、連絡も一切よこさなかったので余計腹立つのだ。
「んだてめぇ」
「んだコラ」
「十座大人しく座ってて、万里も黙って」
「さんかくの人みつけたー!めがさんかくー!」
「夏希ちゃん!!危ないから近寄っちゃダメですよ!ほら、三角さんも!!」
あまりにも睨み合って私なんかアウトオブ眼中だと言わんばかりに見つめ合う(睨み合う)2人にムカついておもいっきり笑顔で頭を叩けば大人しく座ったのだった。