冷めない熱
「それでは、夏組公演千秋楽大成功を祝しまして、かんぱい!」
カンパーイ!と皆の明るくて元気な声が重なってグラスがぶつかる音が鳴る。
無事に満員御礼となった千秋楽は凄まじい熱気に包まれて幕を閉じた。
「夏組のみんな、お疲れ様!」
春組の皆も混じって料理を食べる。うん、我ながら美味しい…いい味だ。
「つづるんにそう言って貰えるとうれしー!」
「ありがとうございます!」
「夏組の舞台を見て、オレたちも早くまた舞台に立ちたくてウズウズした!」
「たしかに」
「こっそり混ざるヨ」
「目立ちすぎるわ!」
「そういえば、この間著名な演劇評論家の方がブログにレビューのせてくれて、反響がすごいんですよ。」
「あぁ、確かに春組夏組の旗揚げ公演の再演希望の問い合わせが劇団の連絡窓口にたくさんきてました」
「そうなんですか!?」
「そうなの?まずは、秋組公演だけど再演もしたいね」
咲也が嬉しそうにロミジュリをやりたいと言えば春組みんなもやりたそうだ、1人を除いてだけど。まぁ、至はやる時はやる男なのでやる気にさせてしまえばこっちのものだ。
「なんか、公演が終わったなんて信じられないな」
「マジそれななんか明日も続きそうな感じ」
「もっとやりたいよねー」
「明日から再演するー」
「ずるいです!」
春組、夏組の再演をするためにも、秋組公演も絶対成功させなきゃ…そうじゃないと再演という未来はない。このままの収益だと1年間以内に借金返済は厳しい。利子分はなんとかなったけどやっぱりまだ劇団的には厳しい。
片付けた後にお風呂に入ってたせいか、時刻はすっかり12時を過ぎていて冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す。一気に流し込むと流石に冷えた麦茶はもう寒かった…もう秋がすぐそこまで来てるのだ。
「夏希が夜ふかしとは珍しいね」
「っ!?い、至っ…か…びっくりした」
「あぁ、ごめんごめん、悪気は無かったオレにも麦茶貰える?」
目頭を抑えてだるそうに背後に立っている至に麦茶を手渡すと至も一気に飲み干した。どうやらこの時間まで休憩無しでゲームをやっていたようで肩が辛そうだ。
「夏希、どうしたの?なんかあった?」
「え?」
「顔に書いてあるよ」
「……なんにも…なくはないけど…」
「けど?」
「至っ……どうしよう」
「ん?」
「私っ、私っ」
「ほら、おいで」
いつも嫌がってたはずなのに手を広げて優しく笑う至に抱きついた、目からは涙が溢れて止まらない。どうしよう、どうしようと頭の中がグルグルと回る考えても考えてもどうしようもないのだ。
至は落ち着くまで私の背中を優しくさすって泣き止んだ私の手を引いて自室へと案内した。
「相変わらず、汚い」
「そう言えるならまだマシか…で、どうしたの?」
「…喧嘩したの…大っ嫌いって言っちゃった…」
「友達?」
事の顛末を話せば至は困ったようにため息を吐いた。至は私の気持ちもわかるし、万里の気持ちも分かるようだった。どうやら男心ってやつらしい。
「私には難しい…」
「ほっておけばそのうち謝ってくると思うよ。夏希は間違ったこと言ってないし堂々としてな」
「……わかった」
隣に座っていた至が立ち上がって部屋を出ていく。あれ?なんか変なこと言ったかな?何も言わず出ていった至を待っていたら数分もしないうちに救急箱を持って帰ってきた。どうやらバレていたらしい。
「ほら、膝と足首と手首……疑ってるわけじゃないけどこれ、そいつにされたんじゃないよね?」
「違う…その、話せば長くなる」
「じゃ話そうか」
ニコニコと怖い笑みで笑う至に何も言えなくなって兵頭十座に会った事を話すとムスッとした顔で次からは誰か連れていくようにと念を押された。勿論ゲーム時以外は至も付いてきてくれるらしい…ゲーム時以外なんてない気がするけど…まぁいっか。
「わかったな?」
「はーい…」
「素直でよろしい。じゃあ、一緒に耐久プレイでもする?」
「うーん……する!」
そういえば至の目がガチモードになったのでそっとコントローラーを持ち上げた。