喧嘩

勇利から何度か着信あったが私が出なかったせいか、LIMEで"天鵞絨駅近くのファミレスにいた"とメッセージが入っていた。つまり、O高校からそう遠くないし万里はここら辺にいるはずだ。

「ッッッ!!」

「いってぇな…」

「すみませんっ」

ドンッと鈍い音がして地面とぶつかったどうやら人にぶつかってしまって転けてしまった慌てて立ち上がって謝って直ぐに走ろうとすれば、おもいっきり手を掴まれてよろける。

「あぁ!?おいっ!!走って逃げようなんざいい度胸してんじゃねぇーか!」

「す、すみませんっ、前を見てなくてっ」

「はぁ?前を見てませんだっ!?嘘つけ!!あーあ、いってーなぁ?手折れたかもな?」

「っ!」

おもいっきり手は上にあげられ顔を見ればニタリと笑った。そうだ、この人…春にナンパされた時一緒にいた男の人だ。

「お前あの時の女じゃねぇーか、丁度いいや慰謝料代わりにちょっと来いや」

「痛いっ痛いっっ離してっ!!」

「あ!?ぎゃーぎゃー喚くんじゃねぇーよ!」

無理やり引っ張られて裏路地に連れ込まれる。
力で敵わない。今になってみんなの言葉が身に染みる…危機感を持てって言われてたのに、1人で突っ走ってこんな所に来て…ああもう何やってんの。

「誰かっ、助けっ」

声を出したくても怖くて声が出ないっ、苦しい。
思うように動けなくて抵抗するので精一杯だ。

「おい、同意じゃなさそうだな?」

「あ、あっ…あっ」

「はぁ?んだとテメェ」

「た、助けっ」

私が助けてと言う前に、私を引っ張っていた男は地面に倒れていた。理解するのに時間がかかる…おもいっきり殴られた?いや、間違えない私を引っ張っていた彼は殴られていた。

「あ、あのっ」

「あ?」

「助けてくれて、ありがとうございましたっ」

「ああ、別にいい気をつけろよ。表通りまで一緒に行ってやる」

「ありがとうございます…」

手を差し出されてその手を掴めば一気に引き上げられて少しよろけたが何事もないように支えてもらった。ちらちらと横顔を見れば嫌そうな表情をした。

「なんだ?」

「あ、あの…お名前は?」

「なんで言わなきゃなんねぇ」

「お、お礼!その、私スイーツ好きなので!その、お礼にスイーツ奢りますっ…ああっ…でも男性にスイーツって言うのもなんか違いますよねっ!!そうだっ!ラーメン!ラーメンとかどうでしょう!?」

「ラーメンじゃなくて…スイーツでいい」

「じゃあ…その…お名前と…LIMEを」

彼は強面だが優しそうで少し安心した。歩くスピード歩幅も合わせてくれるし…そんな彼と話せば少しそっぽ向いて恥ずかしそうにスイーツでと言った。所謂これがギャップ萌えというやつなのかもしれないっ…!

「兵頭十座だ…」

「兵頭十座…?ねっ!!もしかしてっ!!摂津万里!!摂津万里知らないですか!?」

「摂津…万里…?」

「えっと、こんなつり目で狐みたいな長身の男です!!」

「あぁ…さっき…」

歯切れが悪そうにしている彼に聞けばさっき喧嘩売られたので殴ったらしい、それ以降は知らないと言われた。助けてもらった恩もあるわけで、とりあえずLIMEを交換して会った場所を聞いて走って行く。

「っ……った……」

「夏希…?」

「万里っ!アンタっ、何やってんの!?大丈夫なの!?殴られたってきいて」

「うるせぇ、耳元でぎゃーぎゃー喚くな…少しミスっただけだ、お前もう帰れ」

頬に触れようとした私を振り払って万里は立ち上がってすぐ近くのベンチに腰掛けて無表情のまま冷めた目で私を見る。そんな目で見ないで欲しい...ため息を吐いて煙草に火をつけた。

「万里!!タバコやめるって言ったよね!?ホント心配ばっかかけないでよっ!兵頭十座に喧嘩売って!!そんで負けて!!何やってんの!?」

「負けてねぇつーの…お前はオレの母親か?ぎゃあぎゃあうるせぇ…それにお前には関係ねぇーだろ?心配してほしいとかオレがいつ頼んだよ?」

「頼まれてないっ!!だけど!」

「お前は、家族でも彼女でもねぇーだろ?いちいちうっせぇんだよ…」

「わかってるよ!!だけど、万里は友達だもん!!喧嘩しないって約束した!煙草だって吸わないって約束した!!」

「お前には関係ねぇーだろ…友達友達ってお前は劇団ばっかだったろ?今更何が友達だよ?」

「それは、そうだけどっ…たけど」

「お前、うざいから早く帰れ」

そう言われて背筋が凍ったような気がした。こんな万里を初めて見た。それと同時に万里に対して怒りが湧いてきて抑えられない。なんで、どうして?って言葉が込み上げてくる。

「もういい、万里なんて大っ嫌い」

そう言って走ってMANKAI寮へと戻る。最悪だ、最悪だ。LIMEではみんなMANKAI寮へと向かっているらしくこの後は打ち上げがあるって言うのにどんな顔して参加すればいいのだろうか…MANKAI寮へと着けば皆はまだ来てなくて安心した…鏡の前で崩れた化粧を直して、服も着替えて赤く腫れた手をファンデーションで隠す。

「夏希ナニヤッテルンダ?準備スルゾ」

「あっ、亀吉ごめんね今行く」

亀吉にニコリと微笑んで洗面所を後にした。

喧嘩

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