スカウト
「みんな、お疲れ様!」
「おつかれ」
「お疲れ様でした!」
「本当に良かったよ、今日の公演が1番拍手が大きくて…なんかもう、言葉にならないよ」
「全然カーテンコール鳴り止まなかったし、なんかもーなんも考えらんね。ずっと舞台にいたい感じ!」
「そうだな」
ニコニコと笑う夏組にほっとして緊張が抜ける。まだ夢心地だと楽しそうな夏組のみんなを見つめる。千秋楽を無事に終え、招待した方達が激励に来るだろう、狭い楽屋に私がいれば邪魔になってしまう、皆にまた後でねと声をかけて控え室を後にすれば廊下で臣を見つけ声をかける。
「あ、夏希…」
「来てくれたんだね。ありがとう」
ニコリと笑った臣に微笑み返せば臣は下を向いた。やっぱり、演劇に興味があるのだろうか?わからないけれど少しでも演劇に興味があるのならオーディションに参加して欲しくはある。
「凄かったな、夏組の演技」
「うん、凄かったと思う…その…さ、臣は演劇やらないの?」
「え?」
「気になってるなら是非、どうぞ」
"新生秋組団員募集!"と書かれた紙を臣に手渡すと、お見通しかと、笑われた。そりゃ、あれだけ真剣な眼差しで夏組の演技を見ていたのだわからないわけがない。
「臣が、何を考えて見てきたのかは私にはわからないけれどあんなに真剣に演劇見る人は久々にみたかもれしない…そう思っちゃった。だから、やらない後悔よりやる後悔!っておばあちゃんが言ってた」
「あぁ、ありがとう」
臣と別れて外に出て左京さんを探す、絶対いるはずなのだ。あの、アンケートをいつもたくさん書いてるのはきっと左京さんなのだ。あの時のビデオで見た男の子はきっと左京さんだ。
「左京さんっ!」
「っ!おい、危ないだろ!走るんじゃねぇーよ、そんな慌ててどうした?」
「これっ、受け取って欲しくて」
「チラシだと…?はぁ……秋組オーディション?お前なんのつもりだ?」
「スカウトのつもりです」
「はっ、ヤクザまでスカウトするたぁヤケクソにもほどがあんだろう?」
「初代夏組の稽古のビデオに左京さんがいて…昔のMANKAIカンパニーに詳しいなって思ってたんです。この、MANKAIカンパニーが大好きなんですよね…アンケート用紙を見て凄く伝わってきました。それと…いづみさんは立場上スカウトはできないかもしれない。そう思って勝手に私が左京さんに声をかけました。」
「これは…考えとく」
「ありがとうこざいます!」
「あぁ、お前も最初はただのスタッフだと思ってたのにちゃんと成長したな」
「ふふ、左京さんのおかげです」
「はぁ…お前には敵わないな、その勢いでMANKAIカンパニーを頼んだぞ」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる左京さんにニコニコと笑い返せば咳払いをして私に向き直った。左京さんも見送ってメインホールの扉を閉める。
「夏希ーっ、お疲れ様だったねー!えらいえらい!」
「三角!三角の方が凄いし、偉いし!かっこよかったよ!もう、最後のアクロバティックな演技は見惚れちゃったよ…でももう今日で最後かと思うと…寂しいね…」
「元気だしてー!夏希の為ならいつだってランプの魔人になってあげるーそれに、毎日支えてくれたお礼にスーパーさんかくくん贈呈する!」
「ありがとう、大切にするね」
そう言って2人で笑い合う。三角はルンルンで私の隣で謎のさんかくダンスを踊っている。
「夏希ー?少し元気ないけどだいじょーぶ?」
「うん、大丈夫だよ!心配かけちゃってごめんね?」
「夏希がしんどい時はオレも一緒にしんどいってなるから無理はダメだよー?」
「うん、ありがとう。じゃあ、私会場内見回ってくるから三角はゆっくり休んでね!」
「うん、わかった」
会場へと戻って席を撫でる…本来ならここに、万里と来て一緒に見るつもりだったのに万里は来ないの一点張りだった。一緒に見て欲しかった…無理強いはできないけれど、たまにはワガママだって聞いて欲しい。
"んなもん行くかよ、つまんねー"
そう言われて万里は女の子と消えて行った。わかってる、私は彼女でも家族でもなんでもない友達…友達だけど万里はどんどん、やさぐれていって届かない場所へと向かって行ってしまう。
ポケットに入れっぱなしだったスマホが鳴る、電話だ…ディスプレイを見れば万里と仲良くしている勇利からで嫌な予感して直ぐに通話をタップする。
"あぁ、夏希摂津知らねぇか?アイツ、O高校最強のヒョードージューザって奴の話聞いた途端タバコ買ってくるってどっか行っちまったんだけどお前知らね?全然電話繋がんねぇの"
知らないとだけ言ってスマホをポケットの中に入れて会場から走り出した。あのバカ、喧嘩しないって約束したのに…。