カーテンコール

「夏希お疲れ様、レモンティーでいいか?」

「綴っ、ありがと。いただきます」

「おう」

綴から冷えたレモンティーを受け取ると一気に流し込む。いくら冷房が効いているって言ったとてバタバタと動き回ると流石に暑い。まだまだ残暑なのだ。

「ネットの酷評記事話題になってたけど、夏組大丈夫そうなのか?」

「うーん、結構拡散されてるみたいだけど大丈夫じゃないかな?まだ、ゲネプロを見たのはマスコミだけだし、それに噂がくっついて目立ってるだけだと思う」

「まぁ、それはそうだな。公演していくうちに口コミも広まるだろうし」

「春組もそうだったもんね」

「確かにそうだな!」

開幕のブザーが鳴ってアナウンスが流れる。ホールで案内担当の綴と別れて通路に立って見守る、少しぎこちないがどんどんとリズムが出来てきて楽しそうに演技しているのが分かる。もう、大丈夫ゲネプロの汚名返上はできたのだ。

「夏希っ!!」

「て、天馬っ、苦しい」

「そこ、イチャイチャすんな」

「またっ!テンテンだけずりー!」

「オレもー!ハグするー!」

「なら、ボクも!!」

控えに戻れば天馬に抱きしめられて、次から次へと抱き締められる。夏組はスキンシップが多いハグ魔組…嫌な気分はしないのでむしろいいのだけど。

あれから無事に公演を積み重ねついに、千秋楽まできた。いづみさんが異様にご機嫌で嬉しそうだ、千秋楽だから?いや、もっと別の理由がありそうなのだ。だって、チラチラ観客席を見つめてるし…

「監督、ご機嫌ですね」

「ふふ、そうなの。実はね、天馬くんのご両親呼んだの」

「そうなんですか!天馬、緊張してなかったらいいけど…」

「天馬くんなら、大丈夫だよ」

今日も通路に立って舞台を見る。ここで夏組の演技を見るのは今日で最後。感慨深い気持ちなる…それと同時に熱気に包まれた観客席を見渡す。

ポケットの中に入れてあるスマホが震えて画面を見れば、至から通知でURLが貼られておりクリックすれば記事がでてきた。若手俳優の快進撃、皇天馬の本領発揮…ゲネプロの窮地はどこへやら、完成度の高い舞台。今後に期待したい…褒められてる。

"見つけた"

"ありがとう、至"

"うん、泣かないように"

スタンプを送って目頭を抑えた。凄いよ、凄い、やっぱりみんなはとっても凄いよ。ふと足元にキラッと光った物に目をやるとそれは、三角が宝物だと教えてくれた三角定規だった。

届けた方がいいのだろうか?迷ったが、開演までもう少し時間がある、やっぱり心配だし…持っていこう。宝物だと言ってたし。そばにあった方が三角も落ち着くだろう。

「あれ、夏希ちゃん」

「あれ、みんなどうしたの?」

「陣中見舞い」

姉貴今日も可愛い…ニコリと笑って私にすり寄ってくる真澄の頭を撫でたら嬉しそうにいづみさんの方へと寄っていく忙しい子だな。それを見計らったように至は私の隣に立って優しく頭を撫でた。

「天馬くん、調子はどう?」

「座長って重いな。ここまでやってみてお前を改めて尊敬した」

「ええ!?オレ!?」

「千秋楽、お前も怖かったか?」

「うーん、そうだね。正直に言うと、怖かったよ凄くでも、同じくらいワクワクもしてた」

「そうか…オレもだ」

「ここ数日舞台袖から夏組のお芝居を見てて、やっぱりこの舞台を回せるのは天馬くんだけだって思った。それは、千秋楽でも同じだと思う」

「ふん、当たり前だ」

「show must go on!天馬くんならきっとできるよ!」

「ああ、やり遂げてみせる!!」

にこやかにリーダー同士が笑い合う。
少し、そわそわしてる三角に近付いて定規を渡せば目をうるうるさせて私をおもいっきり抱きしめた。

「夏希っ、ありがとう」

「姉貴から離れろ!!」

「三角、夏希から離れよっか」

過保護重症者組がぎゃあぎゃあとうるさいのでそそくさと退避した。ああなった真澄と至はめんどくさい、なんだかんだあの二人似てるし。

ブザーが鳴り響いてアナウンスが流れれば賑やかだだた観客席は静まり返って緊張する。春組のみんなと通路に立って観ることになり全員が緊張感に包まれる。

「今宵も語って聞かせましょう。めくるめく千の物語のそのひとつ……」

「なんだよ、何ぼーっとしてんだ、シェヘラザード」

あれ…こんなセリフあったっけ?そう思い隣にいる綴と目が合うとにこやかに笑いながら首を振った。つまり、これは天馬のアドリブである。そんな天馬に乗せられたのか幸や、みんなの調子はどんどん戻っていき会場のボルテージもぐんっと上がる。

「それでは今宵も語りましょう。3歳のアリババと壮大なおねしょ」

「やめて!!」

「10秒以内!」

「行けばいいんだろ、行けば!……早まったかな」

間が長いなぁと思ったら、幸がこちらを見つめていた。ゆっくり優しく微笑んだ。

「ありがと、アリババ」

暗転して舞台は幕を閉じる。最後のシェヘラザードの呟きがぐっときた。それは、お客さんも一緒でこの会場一体に拍手の嵐が巻き起こる。

カーテンコールでできたみんなの表情を見れば一目瞭然で素敵な最高の舞台になった。そんな夏組を見つめる春組の笑顔も忘れない。

「ありがとうございました!」

「ありがとうございましたー!」

「ありがと」

「まじサンキュー!」

「ありがとー!」

カーテンコール
克服のSUMMER!

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