オレの弱さを、

「みなさーん、まだおかわりありますからね」

「ごちー」

「……ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー」

空気は最悪でいつもたくさん食べてくれる夏組のみんなは全然食べれていなかった。まぁ、そりゃそうだよね…あの後に食べれるっていうのも逆に心配してしまう。もちろん食べて貰えないのは悲しいけど…

「みんな、いつも通りやれば大丈夫だから初日はきっとうまくいくよ!」

そんないづみさんの言葉に皆は上の空で適当に返していく。いや、ほんとよくない、空気がお通夜状態でそんな夏組を見てか春組のみんなはそそくさと部屋と戻っていた。それもそうだ、なにもしてあげられないのだ。これは、天馬達夏組の問題なのだから。

「天馬、ミーティングとかやらなくていいの」

「……いい」

そう、一言だけ言うと天馬は談話室から出て行った。そんな天馬に幸はみるみる不機嫌になっていく。

「天馬くん…もう諦めちゃったんじゃないよね?」

「まさか!テンテンがそんな事あるわけないじゃん!」

「だといいけど」

「ま、まっさかー!テンテンはそんな事ないはずだって!」

「うーん、ちょっと心配だし私様子みてくるね」

「夏希ちゃんお願い。よろしくね」

部屋を見てみれば、電気はついてなくて真っ暗なままだった。部屋には戻ってないっぽい…どこに行ったんだろうか…さすがに心配だ。だけど、芝居バカの天馬の事だきっと劇場にいるんだろう。そう思う。

「お前はそれでいいのかよ!」

「なんでもっと早く言わないんだよ!!幻の楽園なんて嘘つかないで、もっと早く相談すれば!」

いづみさんにLIMEで見つけたよと送って天馬の練習を見守る。諦めたわけじゃなくって本当に良かった。
天馬の芝居はとても好きだ、堂々としててかっこよくて、ファンがたくさんいるのもうなずける。

「夏希、いるんだろ」

「ご、ごめん。邪魔するつもりはなかったんだけど…」

「いや、いい」

「天馬…ゲネプロの事気にしてる?」

「あんな、酷い失敗…見たことないだろう?小学生の時のあれが人生で最悪だと思ってたけどまだあったとはな…」

「私も…失敗ばっかりだったよ。私の両親って天馬のご両親と同じくらい家に帰ってこなくてね…真澄とずっと2人…だけどね、ピアノのコンクールになると両親は必ず帰ってきてくれるの。だけど、緊張して目の前が真っ暗になって…気付けば違う曲弾いちゃったり…転けてドレス破いちゃったり…」

「意外だった…真澄がいつも夏希は完璧だって…」

「完璧な人間なんていないよ…」

「よくそれで、もう一度ピアノを弾こうと思ったな…オレは怖い。明日、また舞台に立つのがあんな風にまた、無様をさらすのが」

「凄く気持ちわかるよ…私は弱い。真澄が居なかったら私はずっと一人ぼっちで友達さえも出来なかった…だけど何度失敗しても何度転んでも怖いけど…おばあちゃんと真澄が大好きだって言ってくれたピアノを辞めることはないよ...私は天馬の演技が大好きだよ」

「………っ」

「私が大それたこと言える資格はないけど、失敗も迷いも舞台の上でお客さんに見せちゃいけないなんて決まりはないんだと思う。完璧じゃなくても、お客さんに喜んでもらえたらいいんじゃないかな?お客さんが夏組の舞台を見て最高に笑えた!って言ってくれればそれは最高の舞台になるんじゃない?」

「完璧じゃなくても…最高の舞台…前に学芸会の話をした時に監督と夏希は笑わなかった。俺が客に完璧な演技を届けたいからアガるんだってオレの欠点をわかってくれた。夏希達が初めてだったんだ。オレの弱さをあんな風に認めてくれたのは」

「天馬…」

「夏希っ…ありがとうな」

天馬に優しく抱きしめられてビックリしたがやさしく抱き締め返せば天馬は離れてふわりと笑った。良かった、いつもの天馬が帰ってきた。ガチャと聞こえて振り返れば夏組のみんなが立っていた。

「なに、ベタベタしてんの?離れて」

「あっ、ちょっと幸っ」

「テンテン抜け駆けずりー!」

「天馬くんと夏希さんがそんな事に!?ボ、ボク、当て馬キャラはちょっと…!あ、でもそれはそれで、美味しいかもしれないけど!」

「椋…何の話し?」

「オレもまざるー!夏希ーーっ」

むぎゅうと三角に抱きしめられてカズくんまでもがオレもオレもと言い出し収集つかなくなってきた。

「遊んでないで、練習するんじゃないの?」

「テンテン、みんなで一緒にやろう?」

「そうだよ!当日までに不安なところなくそう!」

「お前らっ…」

「練習ー!練習ー!」

「そうだな、初日までに仕上げるぞ!」

「当たり前」

誰一人諦めてなくて、いづみさんと2人で笑った。良かった。これで、夏組はしっかり前を向いて持ち直せる。

オレの弱さを、

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