三角定規のヒミツ
「はい、はい、取材の件でしたらまた改めて!」
「夏希ちゃん!資料ってどこだっけ?あ、あーあと!フライヤー追加もできる!?」
「フライヤーは追加で刷ったものは今日の午後に届きます。支配人は電話対応とアポ取りお願い致します。いづみさん資料はこちらにありますよ。あ、ちなみに支配人、公開ゲネプロの詳細は私がまとめておいたやつがあるのでFAXで後で送りますね」
「なんか…凄いことになってんね…」
朝から大忙しでバタバタと事が進んでいく、結局支配人に泣きつかれて指示を出していく。いづみさんはいづみさんで夏組の稽古に行って欲しいのだが、なかなか手が回らず手伝ってもらっている状況だ。
「あ、幸おはよう。取材申し込みが殺到しててね、ゲネプロに報道陣を招くことになったの」
「やべー!カメラいっぱいくるじゃん!」
「芸能人みたいだね…!」
「芸能人だからな!」
「はい!劇団MANKAIカンパニーです!」
支配人も私も電話が鳴りっぱなしで大慌てだ。頑張ってもらわないと…なんとか、やっと落ち着いて支配人と休憩する。手伝ってくれていた、いづみさんは、夏組の稽古指導あるから、と笑顔で談話室を出て行った。
あの日からみんな稽古に力が入っているようで見てるこちらはとても楽しい。
「おう!頑張ってるか?」
「あ、雄三さん!来てくれたんですね!それに、鉄郎さんも!今回も引き受けてくださってありがとうございます」
「ちょうど途中で鉄郎と会ってな、一緒に来た。そうだなー、何年ぶりだろうな?」
「雄三さんは、鉄郎さんが何言ってるかわかるんですね…私ももっと仲良くならないと!」
「あぁ?当たり前だろう?」
稽古場へと案内すれば皆は困ったように苦笑いした。それもそのはずで、私たちや夏組それにいづみさんだって鉄郎さんの声は聞き取れない。これは、昔馴染みってやつなのだろうか。
せっかく雄三さんがきてくれた、という事で通し稽古を見てもらえることに…相変わらず鉄郎さんは無言でただ、私たちを見つめる…夏組の皆は何を言われるかとビクビクしてる。
「へぇ、順調じゃねぇーか。……だな」
「なんて言ったんですか?」
「初代夏組を思い出すってよ、まぁどいつもこいつも、見違えるほど上手くなったじゃねーか」
「ありがとうございます!」
いづみさんが嬉しそうに笑って私も嬉しくなって目を合わせて微笑んだ。
「特にあの三角だっけか、あいつの役への入り込みは時々ハッとさせられるものがある。あいつやっぱり、イカルガさんのお孫さんかもな」
「もしかして…」
「あぁ、夏希は知ってそうだな。初代の全公演の脚本を書いた伝説の劇作家、斑鳩八角。あの人の脚本はハズレがないって有名だ...ただ、気難しい人でな、幸夫さんがいなくなってからは、この劇団では書かなくなっちまった」
「そうなんですね…」
「最近は名前も聞かねぇが、今どうしてるんだろうな」
三角なら知ってるかも知れない…そう思ったけれど口を噤んだ。言いたくない何かがあるかもしれない。それに、住むところがなかったり…修学旅行だって…そんな話を夏合宿で聞いた…安易にこちらから聞けはしないだろう。
みんな、公演に向けて夜遅くミーティングと稽古を頑張っている。そんなみんなになにかしたくて夜食でも作ろうと思いおにぎりを作る。
「ねぇねぇ、夏希おにぎりつくるのー?」
「あ、三角お疲れ様。ミーティングは終わったの?」
「うん、休憩ー!手伝うよー」
「ありがとう、じゃあお願いしようかな」
「さんかくーさんかくー、角がひとつふたつみっつでさんかくさーん!……んー?…夏希ーっ?オレに何か聞きたいことあるー?」
「………お見通しだったの…?」
「うん、ばればれだよー?」
「はぁ…私ね、支配人と物置部屋掃除してたらいろいろ出てきてね…初代の脚本がたくさん出てきたの。それをみたらほら…斑鳩八角って…この人は三角のおじいさん?」
「そうだよー!夏希はじーちゃんのトモダチ?」
「うーん、どうだろう?いづみさんならそうかも…私は名前を知ってるだけで、お友達ではないよ」
「ゆうぞうはじーちゃんのさんかく仲間ー!劇団で一緒にやってたー」
「しってたんだ?」
「じーちゃんに劇団のビデオたっくさん見せてもらった!じーちゃんはオレにお芝居を教えくれたひと。オレのこと見放さないでいてくれた、唯一の人」
「そっか…」
「じゃあ、新生夏組公演招待しなきゃね!」
「んーん、じいちゃん死んじゃったから、招待はできない、だけどみててくれるとおもうー」
「……ごめん…」
「これ、じーちゃんの形見!オレのおまもり!」
「三角定規…?これ、大切なものなんだよね。三角、いつも持ち歩いてる…」
「うん!いっちばんだいじなものー!じーちゃんは、きちょーめんだったから、本書く時にいっつもこれ使ってたんだー夏希は、じーちゃんに似てるなー!あと、顔がさんかくー!」
「うん、ありがとう…」
褒められてるのは分かるんだけれど、そう言われるとなんだか、複雑で…素直に喜べない。斑鳩八角さんに似てる私って…?
「三角が、このMANKAIカンパニーに来たのはおじいさんが導いてくれたのかもしれないね」
「うん、そうかもー。じーちゃんいつも演劇は面白いから、いつかやってみろって言ってたー」
「夏組のみんなとも出会えたしね。さ、おにぎりできたから皆に持っていってあげよう!」
「うんうん!さんかくさんかくー!おいしいおにぎり食べようー!」