お家騒動
今日の稽古はいつもより捗ってた気がする。カズくんがいろいろと意見を出してくれるお掛けで完成度が上がっている気がする。それに、カズくんの意見は意外と….って言ったら失礼だけれど論理的だから参考になるんだよね…
「あ、あの、ごめんください」
ポストに手紙を取りに言った時だった。見慣れない顔のスーツを着た少し頼りなさそうなお兄さんは申し訳なさそうに私を見てそう言った。
「あ、はい、えっと…どちら様でしょうか?」
「あの、いつもお世話になっております。私、皇事務所の井川と申します」
「あ、天馬のマネージャーさんですね、監督と天馬呼んできますのでこちらで少々お待ちください」
「何、お客さん?」
「珍しいね…」
2人には軽く説明していづみさんと天馬を呼びに行けば天馬の表情は固く少し強ばっていた…なんだか嫌な予感がする…
「だれだれー?」
「知らない人ー」
「皇事務所の井川さん。天馬のマネージャーさんだね」
「井川?ここには来るなと言ってあっただろ?」
「し、しかし…」
「しかしも、かかしもない!早く帰れ!」
「まっ、待ってください!ご両親に劇団の事がバレてしまったんです!!」
「何?」
やっぱり…だ。どうやら、天馬はこの劇団に入るのをご両親に伝えてなかったのだろう。何かの手違いだったらいいけれど…どうやら、井川さんの対応を見る限り手違いなんかじゃないのだろう。
「え?ちょっと待って!?バレたってそもそも私、ちゃんと連絡したよね?」
「いえ、ご両親に入団の事は伝えておりません」
「だって…留守電に入れて…」
「あ、アレは私の番号です。天馬くんに口止めされまして…」
「ちょっと、天馬くん!?」
「両親がいない間は、井川が保護者代わりみたいなもんだろ?問題ないだろ?どーせ、海外にいる時は連絡なんてつかないんだから、いないも同然だ」
「それが…お父様が帰国なさってるのです」
「父さんが?」
「今回の舞台の為に映画のオファーを断った事を知って、ショボイ舞台より映画を優先しろとの事です」
「何、勝手なことを!」
「天馬くん、ご両親とちゃんと話さないとダメだよ!」
「ずっとほったらかしだったくせに、こんな時だけ口を出すなんて」
「天馬くんが帰ってこないなら、直接ご自身が乗り込むと…」
「天馬…」
「はぁ…わかった。一旦家に戻る」
「…というわけで、大変申し訳ないのですが、今回の舞台は代役を探していただくということで」
そう井川さんの口から言われ、天馬は見たこともないような剣幕で井川さんを怒った。そりゃそうだ、怒るに決まってる。今まで天馬も含めみんな公演のために一生懸命舞台を作り上げてきたのだ。
「もういい!オレが直接説得する!オレは絶対、お前らと舞台に立つ!待ってろ!」
「井川いくぞ!」
「は、は、はい!では、失礼します!」
談話室の雰囲気は最悪で幸いなことに春組のメンバーが居ないことは助かったかもしれない。きっとみんな心配してしまうし、そわそわしてしまう。
「説得なんてできんのかね?」
「できなかったら降板だよ!?」
「テンテンいなくなったら誰が主役やんの!?」
「オレ、やるー!」
「すみー!魔人どうすんの?」
「うーんと、うーんと、分身する!」
「三角だったらできそうな所が怖いよ…まぁ、落ち着いて。天馬が説得するって言ってくれたんだし、信じよう?無理になったらそれはそれでその後考えよう」
4時間経っても連絡はない…もちろん私にもカントクであるいづみさんにも…そして夏組のメンバーにも。
それだけ時間がかかってるという事はきっときちんと説明して説得しているということだと…信じてる。
「ねぇ!!みて!テンテンのブログ!ずっと更新止まってたんだけど今日更新された!」
「"劇団に入団しました"って…これって!」
「MANKAIカンパニーと公演の事が書いてあるね」
「出演することは隠すって言ってたのに…」
「公表しちゃえば、出るしかないって思ったんじゃね?ネットニュースでもトップになってたし!」
「てんま、あたまいい!」
でも。このことをご両親が知ったらどう思うのだろうか…それに…私の両親も…今、自分のことを天馬と重ねて考えるのはやめて、天馬の事だけ考えよう。
PCを起動させて慌ててチケット情報を見れば公演の残っていたチケットは全てSOLD OUTとなっていた。きっと、さっきのブログのおかげだ…ここまでするってことはきっとちゃんと話し合ってくれたのだろう。
天馬が帰ってきたら、笑顔でおかえりって言って晩御飯には、天馬の好きなハンバーグを作ろう。