過保護な弟
放課後委員会で長引いてしまいそこから走ってMANKAI寮へとお邪魔することになったはいいが、いづみさんから熱烈アプローチを受けている。
「と、言う事で夏希ちゃんも入団していただければというお話なの!やっぱり真澄君もいないんじゃ不安でしょう?」
「姉貴と監督と離れたくない」
「アンタのワガママでこの話が出たのね…」
「真澄君至っての希望もあるんだよ、だけどほら…支配人が洗濯とか食事の用意とか…私達だけで家事するのも無理がありますし、そういう時に夏希ちゃんにお手伝いをお願いできれば…と」
「私からもお願いします!夏希ちゃんが作ってくれたあの朝食は身体に染み渡ります!ほら、やっぱり食が基本じゃないですか!」
「管理人がそれ言っちゃうんスか…」
「アレ…だったからじゃないですか…?」
昨夜にたぶん、真澄が駄々を捏ねたのだろう。それ以外ありえない…でも確かにいづみさんや支配人だけじゃ今後の事を考えると家事をこなすのは大変だろう…それにあの広い家に1人で住むこともなくなる…それなら…ここにお世話になるのもいいかもしれない。
「あ、もちろんお給料も出す予定だから考えてくれれば凄く嬉しいんだけど…どうかな?」
「入団する」
「ちょっと、真澄っ!勝手に決めないで」
「姉貴は1人にしちゃダメだから。父さんとの約束…もう二度とあんなことはあってほしくない…だから、姉貴、俺と一緒に入団する」
「確かに…女性1人が一人暮らしは…危ないですね。夏希ちゃんはまだ未成年ですし…」
「姉貴は、オレとずっと一緒にいるって約束した」
「それは…そうなんだけど…」
どうやら真澄は絶対に折れないようで私を見つめる。こうなった真澄は折れないし、私がはいと言うまで諦めない。昔からずっとそうだ…頑固でワガママできめたらこう!と曲げない不屈の精神の持ち主だ…いいところではある、あるんだけれど!
「………わかりました。私は、演劇には疎いですしご迷惑おかけしますが精一杯スタッフとして力になります」
「ふふ、嬉しい。迷惑たくさんかけていいんだよ。夏希ちゃんもここのMANKAIカンパニーの家族だよ!ようこそ!MANKAIカンパニーへ!」
ムギュっと抱きつかれて視界は真っ暗になってオロオロしていると真澄が怒っている。なるほど、異国の王子様か…な?いや、わからないけど。だけど凄くジャスミンのいい香りがする…
「よろしくネー!夏希はプリンセスネ!?キレイでカワイイヨー!」
「シトロン離れて、姉貴がバカになる」
「真澄酷いヨー!真澄に似てるネ!クールビューティー!デロデロになっちゃうヨー!」
「メロメロだろ!」
「彼はシトロン君、留学生なんだ。今日からMANKAIカンパニーに入団してもらったの。あともう1人社会人の茅ヶ崎至さんって人も入団してもらったんだけど、引越しの都合で明日からここに住むことになります。また、改めて紹介するね」
「わかりました。シトロンさん、碓氷夏希です。よろしくお願いします」
「よろしくネー!」
落ち着いてから、真澄と一緒に1度家に帰ってきていた。いづみさん曰く今日からでも是非との事だったから軽く服など必要最低限の物を寮へと持っていくためだ。
「真澄?どうしたの?あ、鞄?」
「姉貴、その…」
真澄は困ったように私を見つめた。
なんだかんだ、真澄は強引なところがあるけれどこうやって私の意見も聞いてくれる。ただ、最初から聞いてくれればいいんだけれど…いつの間にか私の背をとっくに追い越した真澄を抱きしめた。
「謝らなくていいんだよ。真澄が決めた事だし、応援するって決めてたの。だけど、やっぱり真澄が遠くに行っちゃいそうで凄く怖かったの。だから、ありがとう…それに私達はずっと一緒だから」
「うん」
「真澄がお芝居する所とても楽しみにしてるから頑張ってね。写真たくさん撮らないと」
「姉貴の…写真もたくさん撮る」
「えぇ、もう撮らなくていいよ」
そう言って笑いながら住み慣れた部屋を後にした。数日後に引越し業者が私と真澄の荷物を持って来てくれるそうだ。
お父さんとお母さんに電話もしたが繋がらずLIMEを入れれば2人ともわかったとしか返事が来なかったので私と真澄は至極どうでもいいらしい…それに、私の進学先なんてどうでもいいとでも言うように大学だけは入りなさいと文が付け加えられていた。
「姉貴?」
「ん?」
「いや、別に」
真澄に手を引かれてマンションのエントランスを出る。お父さんとお母さんの大好きな思い出の詰まった広い広い部屋はいつしか苦手な場所になっていた。
「姉貴と俺の家はMANKAIカンパニーになるから」
「そう、だね」
「俺もいる。だけど、アイツらとベタベタするのは許せない…」
「いや…ベタベタはしてないよ?」
「男は狼」
「はいはい…」