明日からオレは!
「いづみさん、珈琲どうぞ」
「ありがとう…ちょうど飲みたいと思ってたところなの…あ、そうだ夏希ちゃん少し相談があるんだけれど」
「相談…ですか?」
「うん、今日稽古場で天馬くんと一成くんの言い合い聞いてたでしょ?そのきっかけなんだけど、演出なんだけれど、魔人の三角くんのアクションシーンを追加しようか迷ってて…」
「なるほど…そのシーンはカズくんにとっても重要ですもんね…」
「私、個人としての意見は魔人には活躍して欲しいです。正直…このままのチケットの売れ行きでは不安です…最後の公演になることだってありますよね…だからこそあの三角の運動神経の良さは全面に出さなきゃって思うんです」
「なるほど…確かに」
コンコンと音がしてカズくんが入ってきた。
「あれ、夏希ちゃん?カントクちゃんも夏希ちゃんもおつピコ!」
「お疲れ様!どうしたの?」
「じゃーん!ポスターのデザインができたよん!試し刷りしたから、見てみて!」
「わぁ…凄い!かっこいいね!」
「ほんとう…かっこいい…三角の好きな三角ベースになってるね、喜ぶと思う!それに、アラビアンな感じも出てて、みんなの写真もかっこいいし、流石カズくん!」
「でしょ!でしょ!」
早速明日みんなに見てもらうのが楽しみだ…けど、本人はそうじゃないみたいでカズくんは元気がない。どうやら今日の稽古場で起きた話し合いがまだ引っかかってるようだった。
「えっと、相談があって…」
「じゃあ、私珈琲入れてきますね」
部屋から出て珈琲を取りに行く、その間に言い難い話でもいづみさんと少しでも出来たらいい…な。部屋に戻ればまだ、カズくんの表情は暗いままだった。
「おお!夏希ちゃんありがとう!やっさしー!」
「夏希ちゃんにも聞いて欲しいみたい…それで…話って?」
「あー、さっきの稽古の事なんだけどさ、ごめ、ちゃんと意見言おうかなとは思ったんだけど言えなかったんだよね」
「オレね、実は中学までガリ勉でトモダチひとりも居なかったんだ。高校デビューで慌ててトモダチめっちゃ増やしたのはいいんだけど…多く作んなきゃって思ってるうちに相手の欲しい言葉ばっかあげるようになっちゃって…前に、テンテンが合宿で言ったこと覚えてる?誰にでもいい顔して、薄っぺらいトモダチ作ってるって……」
「あぁ…天馬が謝った時だね…」
「天馬くん本気で謝ってたもんね…」
「あれ…図星なんだよね。数は多くても本音で言い合えるようなトモダチっていないと思う…いつも、また1人になるのが怖くてさ、相手の言うこと否定しないようにしてきたんだよね」
「そうだったんだ…」
「カントクちゃんや、夏希ちゃん…それに春組のみんなと話してたり夏組のみんなと稽古してるうちに、それだけじゃダメなのかなって思うようになった…みんなとは、薄っぺらいカンケーなんて嫌だし、もっとちゃんと深いところで繋がりたいって思ったんだよね」
「うん、天馬もみんなもそう思ってるよ。だから天馬は怒ったんじゃない?」
「夏希ちゃんの言う通り…天馬くんもそう思ってると思う」
「だねー!テンテン鋭いからさ!バレちゃってるんだよ…うっし!明日からオレ変わるから!見てて、カントクちゃん!夏希ちゃん!」
カズくんと一緒にいづみさんの部屋を出て廊下を歩くとカズくんは立ち止まって空を見上げた。
「夏希ちゃん、珈琲ありがと」
「どういたしまして」
「んじゃね。体冷やさないように!夏希ちゃんに惚れ直してもらえるようにがんばるから!」
「え?カズくん、なんて?」
「おやすみー!」
そう言われて呆然と立ち尽くす。いやいや待って待って待って!そもそも惚れてないし!!
結局悶々としてその日の晩はなかなか寝れなくて寝不足で朝練に参加させてもらった。
「それじゃあ、今日は昨日の続きで一幕から」
「あー、あのさ。すみーのアクションシーンについてちょっといいかな?」
「一成くん、どうぞ」
「今回って旗揚げ公演だし、なるべく団員の個性を出した方がいいと思うんだよね。挨拶代わりって意味でも、魔人役のすみーには派手に動いてもらった方がいいと思う」
「なるほど!」
「確かに、旗揚げ公演ってのは大事かも」
「顔覚えてもらってファンになってもらわないといけないし…」
「オレ、がんばるー!」
「で、バランスについては他のシーンを調整したらいいんじゃないかな?……テンテンどうかな?」
「そうだな。それならいいと思う。ちゃんと自分の意見言えるじゃないか」
「さっさっと言えばいいのに」
どうやら、上手く行きそうで良かった。カズくんと目が合って2人で笑うと椋が不思議そうにどうしたの?と聞いてくる。
これで、みんなの距離がまた近付いて芝居がもっともっとよくなるんだろうなぁ。カズくんは吹っ切れたように笑っている、有言実行な男の人はかっこいいなぁ。