8ミリビデオ
「あれ、古市さん…こんばんは」
「あぁ、夏希か…少し稽古を見学してたんだ」
「中に入らないんですか?」
「あれ、左京さん?あ、夏希ちゃんドリンクありがとう」
「稽古お疲れ様、スポーツドリンク持ってきたよ」
ありがとうと、皆んなが受け取っていく。
ドリンクを渡し終わって稽古部屋から出ようとすればぐいっと、天馬に手を引かれた。
「ちょ。どうしたの?」
「おい、誰だあのヤクザ?」
「今度は、初代夏組とかなんじゃない」
「初代はみんなヤクザみたいな人達ばっかりなのかな…?夏希さんは、大丈夫ですか?」
「うん、私は何も…」
「ヤベー!MANKAIカンパニーって実はヤクザカンパニーなんじゃね?オレたちもちゃっかりヤクザデビュー?」
「夏希笑ってるー?」
三角がそう言って私の顔を覗き込んでくるからよけい面白くなっちゃって笑ってしまう。確かに、古市さんは強面だし、実際本物のヤクザだけどこんな、優しいヤクザいるの?というくらい、カンパニーに寄り添ってくれるヤクザなのだ。
それに、こうやってコンサルタントしてくれる、借金取りなんているんだろうか…というくらいいづみさんに熱心に熱弁しているがきっといづみさんは聞いておらず、上の空だ。
「はぁ…アイツは人の話を全然聞きやがらねぇな…大丈夫そうなのか?」
「今のところは上手くいってるみたいですよ」
「そうか、ここにいるカントクも役者もまだまだ未熟だ、お前が陰ながら支えてやってくれ、また様子みにくる」
「ありがとうございます、左京さん」
「……あ?」
「ご、ごめんなさい…いづみさんが呼んでたからつい…その…いいかなぁ…って。烏滸がましい事をすみません…」
「はぁ…左京で別にいい、古市さんってのも呼ばれ慣れてねぇからな。じゃあ、また来る」
私の頭をぽんぽんと優しく笑いながら撫でて帰って行った。なんだか、あんな優しい一面を見れるとは思ってなかった。ちょっと拍子抜けとうか…意外だった。
「あ、夏希ちゃん、ここにいたんですね?」
「あれ、支配人どうかしましたか?」
「先日出てきた夏組稽古のビデオをみんなでみようかと!一成くんがビデオデッキ借りてきてくれたみたいですよ」
「わかりました、リビング行きますね」
リビングに戻ればみんな集まっていて、椋の隣に座れば膝にかけているブランケットを半分貸してくれる…ほんと、椋って優しい。
「エアコンの風で冷えちゃいますから、暑かったらブランケットどけてくださいね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、電気けっすよー!そんじゃ、スタート!」
カタカタと音がなって映し出されたのは昔の稽古場で今よりもっと稽古場は綺麗だ。だけど、物の配置や場所は今も昔のまま…感慨深そうな表情で支配人は見つめていた。
「あれ…この人…」
「初代の監督か?」
「なんか、この人監督に似てない?」
「お父さんだ…」
「え!?カントクちゃんのパピー!?」
「親子二代で監督やってんだ」
いづみさんのお父さん、初代監督はとても楽しそうにいきいきと演技指導をしている。それに周りの役者さん達も監督に連れられてか、凄く生き生き演技している。
「……やっぱりうまいな」
「それに、面白いし」
「うん、支配人が言ってた初代春組の良さが凄く伝わってくるよ」
チラと三角といづみさんを見れば、嬉しそうで目頭を押さえていた。三角はそんないづみさんに気付いたのがそっと、いつも三角が大事にしている三角定規を差し出していた。
「三角あげるから、泣かないで」
「うん、ありがとう」
ジジっと音がなって画面は砂嵐へと変わった。どうやら練習の風景は終わったようで少し、違和感を覚えた。どこかで…見た事があるような…
「これが…夏組か…」
「見ている人にたくさんの笑顔と元気を与える、胸踊るコメディが初代夏組の、受け売りでした」
「でも、この人たちみんないなくなっちゃったわけでしょ?」
「こんなに、楽しそうにお芝居してるのに…」
「なんか、そう考えて観ると、さびしーって言うか?」
「しんみりー?」
たしかにな…と思いつつ。顔を下げた、永遠なんてないし、ずっとずっと一緒にいれるわけがない…そういう現実を突きつけられているようで胸が苦しくなった。
「オレたちはそうはならないだろ?」
「……テンテン…」
「ま、千秋楽が埋まらなければ即解散だけどな」
「オレもそうはならないと思うよ!テンテン!」
「オレもー!」
「ま、ならないんじゃない?」
「うん!大丈夫だと思うよ!」
ニヤニヤと笑ってしまった。夏組はもう大丈夫だ…最初の頃とは比べ物にならないくらいメンバー同士の絆が感じられるしきっと大丈夫…初代夏組のようにバラバラになったりしない。
「え、あ!」
「夏希?どうしたわけ?大声出して」
「ご、ごめん。なんでもない」
あの、目の黒子…絶対左京さん…だよね?
もしかして、本当に初代夏組だった…?