実はなかよし
「おう、久しぶりだな。夏組始動したらしいな」
「はい、みんな稽古頑張ってますよ」
「あ、雄三さん!来てくれたんですね!夏希ちゃんありがとう」
「あぁ、こいつから電話もらってちょうど時間できたからな」
「雄三?」
「やべー、ヤクザじゃね?」
「あのおじさん、どっかで見たことあるー」
「知り合いか?」
「三角仲間ー?」
「なんだそれ」
「みんな、紹介するね。初代春組の劇団員で今は芝居を教えてる鹿島雄三さん。春組も稽古してもらって夏組も引き続き見てもらうことになったの」
咲也が言ってたのはこいつの事かと、天馬に耳打ちされる。いづみさんにお願いされ雄三さんにアポを取り現在稽古見学中相変わらず、雄三さんの眉間のシワは深くなっていくばかりでニコリともしていない。
「教えてくれ、シェヘラザード!」
「では今宵も語りましょう、昔々とある国に…」
「前置きが長い!3行で!」
「まぁ、春組よりか多少マシか…でも全く笑えねぇコメディ劇としては致命的だな」
「は?」
「特に主役のアリババ、笑いってもんをまったくわかってねぇ」
「どういう意味だ?」
「間だよ、間。くそ真面目すぎんのか、経験のなさか、お前の間はドラマ寄りだ漫才でも見て研究しろ」
「わかった」
案外素直なんだなと少し驚いた。それもそうか、天馬は芝居の事になると人一倍努力する。それがまたかっこよくて天馬の強みだ。
「次、シェヘラザード細部が甘い。準主役の自覚をもてアリババとつりあってない」
「ポンコツ役者みたいな事言うし…」
「その次、アラジン役の解釈が甘いヘラヘラこなすだけでなんとかなると思うなよ」
「やべー!テンテン以上に厳しい!」
「シンドバッド、動きも声も小さい。他の奴らと比べで悪目立ちしてる。最後に魔人、悪くねぇがもうちっと場を引き締める役割もこなせ。全員まだまだ客の前に出るには程遠いレベルだ、初日までになんとかしねぇと恥かくぞ」
「終わったら反省会だな」
みんな前向きで、今までの天馬のお掛けか雄三さんの言葉がいい意味で効いているようでただ真直ぐ前を向いている。雄三さんと部屋から出て談話室へと案内し、目の前に珈琲を置く。
「悪いな」
「いえいえ、忙しいのにわざわざありがとうございます」
「ったく、にしても全然こたえてねぇな...まぁ夏組もなかなか面白い素材が集まったじゃねぇーか初代を思い出す」
「初代…か…」
「会いたいのか?」
「会えるんですか…?」
「アポは取ってやるよ。それと、公演のチケットだ欲しがってたろ?」
「いいんですか!?ありがとうございます…嬉しい!雄三さんの舞台はいつもいつもチケット争奪戦なんです…」
雄三さんは笑って私の頭を優しく撫でる。父親とはこんな感じなのだろうか。私の両親はこういう感じではないが父は昔は雄三さんに似ていた気がする。
「はぁ…ほんと、雄三さんは夏希に甘いっすね…」
「デロデロネー!」
「それを言うならメロメロな。夏希が会いたがってる初代って言ってた冬組の?」
「冬組の初代…なぁ…9割無理だと思っておけよ。アポは取ってみるがきっとダメだろうな」
「いいんです。もし今は会えなくても、もっともっとMANKAIカンパニーが有名になれば、会わざるおえないですもん…」
「それもそうだな…美味かったありがとな」
そう言ってま私の頭を優しく撫でて帰って行った。本当に雄三さんはこの劇団が好きなんだなぁと改めて思う。
「えー、夏希雄三さんに手出されたの?」
「至、おかえり…どうなったらそんな話になるの?」
「シトロンから聞いた」
「シトロンから…また間違った見解が入ってると思うんだけど…至ーっ、重いから離れてよ、スーツから着替えてきたら?シワなるよ」
「はーい」
「姉貴!あいつまた来てたのか!?なにもされてないか?」
「はぁ…ほんと、春組って夏希に対して過保護すぎないか?これじゃあいつまでたっても箱入り娘のままになっちゃうぞ…」
「はぁ?そう言う綴も十分夏希に対して甘いと思うけど?」
「幸、オレはあんなに甘やかしてるわけじゃ」
「はぁ?何言ってんの。一緒でしょ、つーか、みんな夏希とカントクには甘々じゃん。オレも含めてだけど…まぁ、至と真澄はもう病気だと思うけど」
「あ。今年海行かない?って誘われたんだけど」
「「はぁ!?」」
「うるさい!断ったよ!至と真澄がそうなると思って!だけど行きたいから至連れて行って」
「有給申請してくる」
「チョロすぎだろあの大人」
「この前、自分でオレは夏希の財布だからって真顔で言ってて、オレはああ言う大人にはなりたくないなって思ったよ」
「え?海行くんですか!?いいなぁ」
「夏組も一緒に行きたいけど、稽古があるから今回は至の運転で春組で行こっか」
「やったー!楽しみですね!」
「姉貴が行くなら俺も行く」
「オー!ジャパニーズオーシャンネ!」
「まぁ、いつもお世話になってるし、癒させてもらってるからチャラなんじゃない?」
「それもそうだけど、村人Bは手遅れだよね?」
「なにが?」
「夏希に惚れてるから」
「なっ!ち、違う」
「ふーん、あっそ。じゃあ、俺夏希と結婚しよ」
「そうやってからかうだろ!」