頭ポンポンは恥ずかしい

"夏希、真澄、おいで"

おばあちゃんが私と真澄を呼んで優しく私達の頭を撫でる、にこりと笑えばおばあちゃんも優しく微笑んでくれる。

「んっ……んっ…朝…か」

慣れない場所で寝ると寝付きが悪いはずなのに、凄く心地よい夢を見た。お父さんもお母さんもおばあちゃんも真澄も凄く笑顔で楽しかった時の夢。こんな夢を見るのは何年ぶりだろうか。

真澄以外の人達と楽しくご飯を食べて監督さんもとい、いづみさんと一緒にお風呂に入らせてもらって事の顛末も聞かせてもらった。

私に出来ることは、ないですか?そう口走りそうになったが結局私は劇団員の身内、にしかならない。そう思って言いかけていた言葉を飲み込んだのだ。

あまりスッキリしない頭で昨夜の出来事がグルグルと回る…考えすぎるのは良くない癖だ。いつも朝起きている時間、現在朝の6時にはぱっちりと目が冴えてしまった。

洗面所を借りて、顔を洗って歯を磨いて着替えて身だしなみを整えて談話室に行けば真っ暗なままだった…勝手に冷蔵庫を物色する。

「おお、早いなおはよう」

「皆木さん、おはようございます」

「いやいや、綴でいいってそれに敬語もなんかむず痒いし」

「わかりまし、わかった。綴」

「真澄も敬語は使ってないし気にすんなよ。つーか、早くに目覚めて暇だし朝メシでも作るかぁと思ったけど殆ど出来てる感じだな」

「勝手にキッチンお借りしちゃいました」

「監督も支配人も怒るタイプじゃないだろうし。これは感謝しかないだろ」

綴さんはそう言って私の頭をポンポンと撫でた。
一気に熱が顔に集まるのが嫌でもわかった、そんなことされた事…いやあるけれど、万里のあれは最早嫌がらせに違い。こうやって優しく頭を撫でられる事なんてほとんど無い…流石に恥ずかしい。

「あ、悪いっ!いつもの癖で…」

「嬉しいよ!ちょっと、恥ずかしかっただけ」

「そっか嫌じゃないなら良かった。下に妹弟が多いせいかついついいつもの癖で…気をつけないと」

「嬉しかったから…やめなくてもいいのに」

「え?」

「なっ、なんでもない!早く運んで!」

私のことをクスクスと笑う綴に怒っていると、いづみさんが起きて来た。隣にはまだまだ眠そうな支配人が目を擦っている…いづみさんに起こして貰ったのだろうか?

「2人ともおはよう、早いねーって、あれ!?やっぱり!いい匂いするなぁと思ってたら朝ごはん作ってくれたの!?」

「俺は今起きてきたばっかりッスよ、夏希ちゃんが作ってくれたっス」

「勝手に食材とキッチンお借りしちゃいました…お口に合うかどうかはわからないですが是非」

「凄く嬉しいよ!ありがとう!久々のちゃんとした朝ごはんだ…美味しそう」

「昨日譜面と睨めっこしちゃってそのまま夜更かししたんですが…この朝食は身体に染み渡りますね…」

お味噌汁に焼き魚、炊きたての白米おひたしなどを作ってみたがどうやらみんなお口に合ったようで良かった。美味しいと食べてくれる姿は本当に嬉しい。いつも真澄と2人で食べるご飯も美味しいがこうやってみんなで食べるご飯も悪くない。

寝ぼけている真澄を佐久間君と引っ張って学校まで一緒に登校してやっと、昼休憩…ぼーっとしていると頭をポンポンと撫でられ振り返れば重役出勤してきた万里が顔を歪めて私を見た。

「お前、シャンプー変えたの?」

「え?」

「いや、万里それはセクハラだからな」

「はぁ!?うるせぇ!」

「シャンプー…?変えてないよ?昨日結局あそこに泊まったの。実はあの場所劇団寮だったの」

「劇団寮?ふーん、そうだったんだな」

「だから、シャンプー変えたかといえば変えた。いつも使ってないやつ使ったよ」

「いやいや、夏希も真面目に答えなくていいだろ」

クラスメイトにからかわれる万里は私の髪の毛で遊びながら興味無さそうにしている。聞いてきたのは、万里なのにてか、貴方と違って私はそういった遊びはしません!と言いたいところだが話がややこしくなりそうなので言わない。

「万里くーん!」

「あ?んだよ」

違うクラスメイトの子だろうか、女の子達に呼ばれ万里はふらふらと女の子に連れられて教室を出ていった。LIMEと音がなり画面を見れば万里から"今日、晩飯"と送られてきていた…適当にスタンプを送って約束をする。

結局万里は5時間目が終わったあとに戻ってきた。何をしてたかは、聞く勇気はないけれど不機嫌だったのはわかる。だが、今日の晩御飯はカルフォルニアロールを作ってあげると言うと露骨に機嫌が良くなった…うん、ほんと子供だな。

「ふぅん、弟が劇団ねぇ潰れそうな劇団なんだろ?大丈夫なのか?」

「大丈夫そうだったよ?監督さんも凄くいい人だったし」

「ふーん、じゃあいいんじゃねぇーの?応援してやれば?」

「うん、そうだね…」

「はぁ…寂しいのか?まぁ、こんなだだっ広い家に1人じゃ無理もねぇーわな」

「うわぁ…さすがエスパー万里」

「変なあだ名つけんな!つーか、別にこんな風に話したり飯行くのだってお前だけだろ。他の連中は怖がって近寄りもしねぇし」

「でも、万里彼女コロコロ変わるじゃん…今日だって万里呼び出されてたじゃない?」

「それは、俺じゃなくて俺の知名度と付き合ってんの…つーか、妬いてんの?」

「バカじゃないの?私は、年上でイケメンで、頭良くて、王子様みたいで車もってる人しか好きになれない」

「うわぁ…お前それ一生彼氏出来ねぇぞ」

「はぁ!?万里に言われたくない!万里なんか結婚すら出来るわけないじゃん!」

真澄は昨日から入寮したため私と万里は一緒に晩御飯を食べて万里を見送れば広い部屋に1人になる。本当に、静かだ。いつもこの時間は真澄と映画を見たり音楽を聞いたり…ポケットに入れていた急にスマホが鳴って手に取れば真澄からで慌てて出る。

【あ、夏希ちゃん?ごめんね、真澄君にスマホ借りちゃってちょっと話したい事があるから明日劇団に来てくれないかな?】

【あ、はいわかりました】

もしかして、真澄何かやらかした?いや…流石に1日目で…だがしかし、協調性ないからなぁ…いや、でも…結局私はグルグルと考えすぎてしまって朝方全然眠れず学校で居眠りしすぎて怒られたのは言うまでもない。

頭ポンポンは恥ずかしい

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