団結の秘訣
「バカバカしい、なんだあのレベルの低さは!あれをどうにかする方法だと?……くそっ、全然わかんねぇよ!無理に決まってる!!」
深いため息を吐いた。
上手くいかない、つかなんでおれが怒られたみたいになってんだよ。だいたいレベルの低いアイツらが悪いだろう!瑠璃川は口を開けば突っかかってくる、向坂はオドオドしてるだけ、三好はヘラヘラしっぱなし、変人は安定の変人だ。
つか、安定ってなんだよ…また深いため息を吐いて空を見上げる。
「待って、天馬っ」
「夏希」
走ってきたのだろうか、息が上がってる。
ジャージに短パン普通の格好だが様になってるそこら辺の女優より綺麗だ。次回のCMもこいつが共演なら少しくらい気分が上がるかもしれない…頭の中は憂鬱な事ばかりだ。
「んだよ……」
「あれ?天馬くん?それに、夏希ちゃん?どうしたの?まだ、稽古中だよね?」
「………休憩中」
「そうなの。咲也は?」
「そっか!お疲れ様!オレ?オレは、部屋に戻るところ」
心配そうな目を俺に向ける夏希と目が合う。
その顔はやめて欲しい気になるしなんだか、捨て猫に見られているみたいで気分が悪い。
捨て猫は失礼かもしれないが…こっちが悪い事をしてしまった気分になるのだ。
「…アンタ、春組のリーダーなんだよな?春組は、どうだったんだ?」
「どうって?」
「だから、なんか、揉めたりとか、上手くいかなかったりとか…」
「ああ!最初はやっぱり大変だったよ?雄三さんっていう初代春組の人にコーチ来てもらったら、けちょんけちょんに言われて、へこんじゃったり…」
「で?どうしたんだ?」
考え込みながら春組リーダーの佐久間咲也は首を傾げる。夏希は黙ってベンチに座り、考え込んでいるおおかた監督に迷惑をかけて欲しいくないのだろう。真澄と同じくコイツも結構な監督好きだから。
「うーん、監督に特別メニュー考えてもらったりしたよ?」
「アンタはなにもしてないのか?」
「オレ?は特になにも…」
「それでなんとかなるのかよ!?」
「なんとかなるっていうか、みんななんとなくまとまっていってたから...あ、でも舞台の事を真剣に考えるために舞台の上に布団を持ち込んで一緒に寝たりしたよ、今思えばあの頃からみんなと仲良くなれた気がしたかな」
「仲良くって…そんな必要あるのかよ」
「え?だって、意思疎通ができた方が芝居もうまくいくでしょう?」
「わざわざみんなでとかそういうのわかんね…個人がベストを尽くすのが何よりも大事だろ」
「それも大事かもしれないけれど、オレは実際に体験したからわかるよ。みんなのお芝居がこれ以上ないくらいかみ合って胸が震える、あの気持ちを…春組のみんなの心をひとつにしなきゃきっとあの千秋楽は作り上げられなかった。うまく説明出来ないけど…」
「……ふん、確かに千秋楽のアンタの芝居は悔しいけどオレも認める」
そうだ、あの日ボロい劇場で暇つぶし程度にコイツの千秋楽を見たのだ。少し拙い部分もあったが、こいつの芝居を見てほかの劇団よりマシだなと思った。
「何かあったら、また相談させろ。リーダー同士としてな」
「オレで良ければいつでも話聞くよ!稽古頑張ってね!」
くすくすと笑う夏希を睨みつけ隣に座れば、急に立ち上がってオレの頭を優しく撫でた。コイツこういう所があるから苦手だ…俺の事を俳優扱いもしない、かといって瑠璃川みたいな態度をとる事もしない、弟みたいに扱われるのは正直慣れてないからむず痒い。
「やればできるね天馬!私は天馬が辞めますって言っちゃうと思ってた」
いつまでもふわふわ~とアホっぽい声を出しながら俺の頭を撫で続けていて鬱陶しい…手を掴んで監督の部屋へと夏希をつれたまま向かう。
「え?ごめん、嫌だったら謝る」
「嫌に決まってんだろ」
「えーっもうちょっとふわふわさせて欲しかったな」
「調子に乗るな!」
監督の部屋をノックすれば驚いた様子の監督は快く笑顔でどうしたの?と聞いてきた。
「リーダーとしての考えとかいうのまとめてきてやったぜ……」
「え!?もしかして今までずっと考えてたの!?」
「監督がそう言ったんだろ…」
"とりあえず全員で寝てみる"そういえば夏希も監督も固まった夏希にいたっては、頭おかしくなったの?とか聞いてくる始末だ。お前っ、さっき咲也との会話きいてたろ!?