波乱の読み合わせ
「今日から本格的に読み合わせ始めるけど、みんなちゃんと台本は読んできた?」
「はーい」
「当然だ」
「ねぇー台本ってなにー?」
「この前綴さんが書いてくれた脚本の事ですよ」
「すみーは、魔人の役だったじゃん!」
「あぁー!ランプの精ーっ!」
「そうそう!」
流石カズくんはこの夏組をまとめるお兄さんといったかんじだ。ちょっと心配もあるけれどなんとか上手くいっているようで安心した。いづみさんから夏組の稽古見学に招待されたのでせっかくなので見学させてもらっているのだ。
「セリフを読みながらそれぞれ役を掴んでいくようにしてね?それでは、冒頭から」
「今宵もうたって聞かせましょうめくるめく千の物語のそのひとつ」
今回綴が作成した脚本はアラビアンナイトをモチーフにしたコメディ劇でシェヘラザードとアリババが幼なじみと言う設定だ。幸と天馬にはピッタリだろう。この2人を中心におとぎ話の主人公達がオアシスを探すという大筋だ。
「教えてくれ!シェヘラザード!幻の楽園オアシスはどこにあるんだ!?」
「では今宵も語りましょう昔むかしとある国に」
「前置きが長い!3行で!」
「アラジン、魔法のランプ、魔法使い!」
「前置きが長い!3秒で!!」
演技が凄くて思わず引き込まれ我に返る。幸はまだ手探りだろうけど、天馬はもう役を掴んでいる…コメディ劇も問題なく演技しているし実力は本当に申し分ない。
「アラジン…オレとなんか関係あんのかな?まぁいっか!ねえねえ君かわいいね!名前なんて言うの?」
カズくんはナンパな性格と近いし、やりやすそうでイキイキと演技している。さすが綴。綴の当て書きが功を奏したらしい。
「オレは魔人。3つの願いを叶えてやろう主の願いはなんだ?」
「ぎゃぁぁ!尻に火がついた!!」
「見ればわかるだろ!?あの魔法使いと大蛇をなんとかして!!」
「魔法使いと大蛇か、それぞれ1つずつ2つの願いを使うことになるがよろしいかな」
「なんでもいいから早くして!!」
「承知した」
三角さんもハマっている。浮世離れした所が上手く魔人と当てはまっている…それに演技が唯一天馬と同じでついていけるのが三角さんだ…最初いづみさんに聞いた時驚いたがその通りだっだ。
「お前っ、シンドバッドのくせに黄金の在処とか知らないのかよ!!」
「えっと…大人になりなよアリババ幻の楽園なんて無いんだよ一発逆転で億万長者になんかなれないんだって。真面目に働け」
「……なんだそれ…授業で朗読させられてるんじゃないんだぞ?」
「ごめん…大人になれ、なるーっ…あっ、ごめんなさい」
「はぁ……」
「ねぇ、いちいち止めるのやめてくれない?やりづらい」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
「ご、ごめんなさい…僕がアホでバカでクズのちり紙だからっ」
「「そこまで言ってない」」
天馬は天馬なりに椋にセリフを言わせてあげようとしているが焦ってしまう椋は噛み噛みでどうしても噛んでしまう。春組からの教訓だがこういう雰囲気になってしまうとどうしてもミスが増えるのだ。
「これで終幕と、これでひとまず最後まで通せたね」
「話にならないそんなんで俺に釣り合うと思ってんのか!特に向坂!足でまといになる気か!役を掴む前にセリフを言う姿勢が「天馬くんストップ!最初から同じレベルでやろうと思う方が無理だよ!」
「やってられない、あとは勝手に練習しろ」
バタンと扉が閉まり重苦しい雰囲気に包まれる。チラッといづみさんを見れば目が合って天馬を見に行くようにと目で合図をもらう。
「待って、天馬っ」
「あ?」
「あのね、リーダーとしてみんなの芝居をよくするためにはどうしたらいいか考えて、天馬には出来るはずなんだよ」
「わかってる」