夏組の未熟な王子様
「あっ…しまった」
テスト週間も無事終わって晩御飯作成中…今日はミートスパゲッティなのに肝心なトマトを買い忘れてしまった…最悪だ。今更変更するわけにもいかず着替える。
ついでにケーキでも買って帰ろうかなぁせっかく出かけるんだし…
「ただいま帰りました」
「あ、椋くんおかえり」
「あれ?夏希さん、どこかおでかけですか?」
「うん、買い物行こうかなぁって…ついうっかり晩御飯の食材買い忘れちゃって…せっかく出かけるならケーキでも買おうかなぁ…椋くんはケーキすき?」
「はい、甘いもの好きです!僕荷物持ちしましょうか?」
「え?いいの?学校から帰ってきて疲れてるのに…」
「それは、夏希さんも同じです。僕達のために頑張っていただいてるんですから、お手伝いします」
「ありがとう!」
真澄には失礼だが同じ人間とは思えないくらい優しくて思いやりがあっていい子だ…。真澄が悪い訳では無いが真澄の場合はお手伝いはしてくれるが行き過ぎている部分がありストーカーに近いのでどうしてもストレスに感じてしまう時があるのだ。
寮の近くの商店街は今日も賑やかである。この時間に来るのは久しぶりでいろいろとセールをやっているせいか、買いすぎてしまった…
「椋くんが付き合ってくれてるからって買いすぎちゃった…持つよ」
「このくらい大丈夫ですよ。実はずっと陸上部で朝も放課後も学校の授業以外は部活ばっかりやってたんです。だから力には自信あります」
「そうだったんだ、じゃあお言葉に甘えるね。しんどくなったら半分持つからね」
「はい」
少し表情が暗くなって悲しげな表情を見せたのが気になった。部活ばっかりやってた…じゃあ今は?そんな言葉は聞くのが怖くて飲み込んだ。
「でも今は、朝も夕方も練習しているので懐かしい感じがしますね」
「あ、向坂?」
「あ……」
「久しぶり、…………なんか同じ学校なのにあんまり会わないな…いまなにしてんの?」
「今は……なにも…」
気まずい空気が流れて、私にはどうしようもなくどんどんと空気が悪くなって言ってしまった。仲が良くない人なのかそうじゃないのかはわからないが椋くんとは顔見知りで同じ制服着てたからもしかしたらチームメイトなのかもしれない。
「友達?」
「陸上部の元チームメイトです。僕怪我しちゃって辞めちゃったんです。エースとして期待されてたんですけど…馬鹿ですよね」
「そうだったんだね…」
「大好きな少女漫画のヒーローが陸上部のエースでそれに憧れて始めました。同じようにカッコイイエースになるために毎日練習して…必死で努力して…でもエースになる夢は途中でチームのみんなと優勝する夢に代わりました」
椋くんのチームメイトは椋くんの気持ちを思ってどんな風に声をかけたらいいかわからなかったのかな…
「あの頃みんなと追いかけた夢は僕にはもう見られません。その代わりに今度は舞台の、上で少女漫画の王子様になろうとしてるだなんてみんなに知られたら笑われちゃいますよね」
「そんな事ないと思うけどな…そうだ、さっきのチームメイトの人達今度の公演に招待しない?椋くんの舞台見てもらおうよ。」
「え?でも…」
「陸上の代わりに椋くんが今頑張ってる姿を見てもらおう?」
「はい!頑張ります!!」
「いつか、椋くんが王子様の役をやってるの観るの楽しみにしてるね」
「もちろんです!!僕がどこまでやれるかはわからないですけど…夏希さんにせっかく誘って貰えたんです!なので絶対に夢を叶えてみませます」
頼もしいねって2人で笑う。あの日、椋くんが見に来てくれた時周りのお客さんとは違ってのめり込むように目を輝かせて見ていたのを私は知ってる。
だからこそ椋くんに声をかけた。
「楽しみにしてるね、椋」
「は、は、恥ずかしいですけど、嬉しいです」
「私も夏希って呼んで欲しいかな」
「は、ハードルが高いです…僕はまだまだ未熟なので夏希さんって呼びます…だけど、だけど僕が相応しい男になったら絶対に呼んでみせますから!」
「ふふ、楽しみにしてる」
ふと、スマホがなり画面を開けば真澄からお腹すいて倒れそうとの事。しまったゆっくりしすぎて時間を忘れてしまってた。
「帰らないと!」
「ああっ!もうこんな時間なんですね!急がないとっ!」