縦横無尽自由人
天馬のぎゃぁぁぁあ、と言う叫び声にビクッと肩が揺れてシトロンがニッコリ笑顔でオバケでたネ?と笑うので思わず、手が出そうになった。危ない、危ない。
「シトロン…私本当に怖いの無理なの」
「今はワタシもいるネ!大丈夫ヨ!」
「じゃあ、お願いだからビビらせないでよ…」
気付けば談話室からは人がいなくなっていて、シトロンと2人きりで今日の晩御飯シトロンお手製のおにぎりだ。ちなみにカレーにかけるようのおにぎりである。
バタバタと騒がしい音が聞こえてくる…いや、そもそもオバケなんかじゃなくて、野良猫が住み着いちゃったりしただけなんじゃないだろうか?掃除や点検しなかった私が悪いけれど…様子見に行ったほうがいいのかな?
「ふんふんふーん。今日のお昼はワタシが握ったおにぎりネー」
「……おにぎり!」
「え!?え??………誰?」
「んぐっ…おいしいー!」
「キミ、誰だヨ?」
「オレ、三角ー!」
手の中にあったはずのさんかくおにぎりは、いとも容易く彼の口の中だ。三角…聞いたことない人だ。それにしても浮世離れした感じである…ぼーっとその人を眺めてると息を切らした真澄が勢いよく談話室に戻ってきた。
「も、もうにげられませんよ!」
「背中にくっつくな!」
「三角くんはどうして寮に住んでたの?」
「行くところがないからー」
「さ、じゃあ、おまわりさんに電話して…」
「その前に親御さんじゃないんですか?」
「三角くん、お芝居に興味ってある?」
そう笑顔で聞いたいづみさん…その言葉に凍り付く面々達…そりゃそうだ…今回ばかりはみんなの意見寄りではある…。
「いやいや、アンタ正気?」
「ありえねぇ!」
「こんなの拾う気?」
「芝居?知ってるよ」
「もし良ければやってみない?そうしたら、あの家に住んでてもいいから」
「おにぎり食べられる?」
「え…そこなの?」
「うん。朝と晩」
「じゃあ、やる!」
カズくんよりノリが軽すぎる…しかもおにぎりで劇団員をつるなんて…前代未聞だ。特に幸と天馬は納得いってないようで未だしかめっ面である。
「よし、決まり!」
「どうなっても知らないからね…」
「こんなのと芝居一緒にやるのか…てか、夏希も監督止めろよ」
「いづみさんは、お芝居のことになると盲目になるからね…」
「カントクは、芝居オタクってやつネ!」
「確かにいづみさんはお芝居オタクではあるかも…でも三角さん悪い人じゃなさそうだけど…」
「そうなの!さっきもね凄い運動神経で階段とかからサッと飛び降りたりしてたの!すっごく運動神経いいからお芝居にも生かせるとおもうの!」
「なるほど…貴重な人材ですね!」
目をキラキラ輝かせながらいづみさんがそう語った。確かにこのメンバーに運動神経抜群の人がいればそりゃ喉から手が出るほど欲しい。だって、本当に舞台ではえるだろうしかっこいい。
「よくわかんないけど、おもしろそー!すみー!よろ!」
「よ、よろしくお願いします!」
「監督…相変わらず節操がない」
「人聞きの悪い事言わないの…そんな事言い始めたら春組もなかなかだからね?」
「オー!夏組血栓ネ!」
「シトロン血栓じゃなくて、結成だよ。三角さんで、5人揃いましたね」
そう言うと三角さんがニッコリ笑顔で笑って私の前に立ち私の手をギュッと握る。
え?どういう状況ですか?
「夏希って言うんだねー!オレは三角だよ。夏希はさんかくおにぎり作るの上手だからオレと結婚するー?」
ぶっ殺す!!!!
「夏希ちゃんに結婚はまだ早い!!私が許さない!!」
「そうですよ!!私も許しませんよ!!」
「ちょ、ちょっと、真澄落ち着いて。いづみさんも支配人も落ち着いてください!!ていうか!さんかくおにぎりが上手に握れる人と結婚するなら、シトロンか、もしくは綴が上手だからそのどっちかと結婚することになりますよ!!」
「えぇ……それはイヤー」
「で、結婚するかは、兎も角部屋割りはどうすんの?」
「うーん、そうなると天馬くんと三角くんが203号室で同室かな?」
「ねぇー!夏希おにぎりもういっこたべていいー?」
「どうぞ」
「わぁー!ありがとー!」
結局言い合いしながらも天馬と幸は渋々同室になったようで一件落着した。夏組はどうも個性の塊というメンバーが集まったようで、そんな彼らにいづみさんが優しく微笑んでいた。