春の次は、
「えー、それでは、春組旗揚げ公演が無事満員御礼で千秋楽を迎えられた事を祝いまして、打ち上げを開催したいと思います!」
今日は千秋楽を無事に終えられたお祝いで、いろいろな料理をいつも以上に張り切って作らさせてもらった。お酒に合うものからガッツリ系までたくさん…食べれなかったら冷凍でもしようと思う。
「わー!お疲れ様でした!」
「おつかれ!」
「おつおつ」
「……おつかれ」
「おつかれダヨー」
「ううっ、劇団が無くならなくてっ、本当にっ!うっううっ」
「感動するの早いっすよ!支配人」
「皆んなグラスもったね?それじゃあ、乾杯の音頭は今回の座長である咲也くん!お願い」
「えぇ!?オレですか!?乾杯なんてした事ないですし、監督の方が適任ですよ」
「いづみさんのご指名だし、咲也が適任じゃないかな?」
「姉貴も言ってる。早くしろ咲也」
「最初は劇団が俺1人しかいなくて、舞台に立てただけでも嬉しいと思ってました。でも、劇団が無くなるかもしれないって言われて、監督が現れて皆んなが入ってきてくれて…もっといい芝居がしたい。いい舞台にしたいと思いました!」
「うんうん!」
いづみさんは目に涙を溜めながら嬉しそうに頷いた。最初の咲也の舞台は見たことがないからわからないけれど…いづみさん曰く凄く酷かったらしい。
「千秋楽は今までの人生の中で最高の時間でした。もっと同じ時間を味わいたいって思うような、幸せな時間でした」
「……だな」
「俺も」
「まだまだ未熟だけど、みんな、これからもよろしくお願いします!もっといい舞台を作っていきましょう!」
「うん!もちろん!」
「いいネ!」
「当たり前」
咲也の乾杯!の声に合わせてグラスがぶつかる音が響いた。皆は嬉しそうに美味しいと言いながら食べてくれるから本当に作りがいがあって嬉しい。
「ううっー!まるでっ!昔みたいなっー」
「支配人…泣きすぎですよ…ほら、拭いてください」
「こんな可愛らしい私の助手が入団してくれるなんてっ…私はっ…私はっ」
「え?助手…?支配人の助手になった覚えはないですよ?」
「夏希ちゃん本当にありがとうね。雑務ばっかりお願いしちゃってごめんね…本当に助かるよ…左京さんも夏希ちゃんの事凄く褒めてたよ」
「嬉しいです。こちらこそありがとうございます」
「支配人そろそろ泣き止んでくださいよ…あ、泣くといえば至が泣いてたのは以外だった」
「オレ、もらい泣きしそうになりました」
「脚が痛くてさ」
至はサラッと笑顔で嘘をつく。至は演劇にハマったみたいで毎日ちゃんと稽古には出てる。まぁもちろん相変わらずゲーム中毒者で私もその仲間に片足突っ込んでるのだけれど。
「いづみさん、そういえば次の公演はどうするんですか?」
「次の公演は夏組だね。一年以内にあと夏組、秋組、冬組の15人を集めてそれぞれ一公演ずつやらないと行けないから、春組の公演はその後だね」
「なるほど…オーディションと宣伝方法も考えないとダメですね…じゃあ、夏希ちゃんに頼みますね!」
「支配人!これ以上夏希ちゃんの負担を増やさないでください!」
「まぁ、そうなると必然的に舞台はお預けか」
「新作ゲームの耐久プレイが捗る」
「稽古は続けてもらいますからね!」
「マジか」
「ちょっと残念だけど、次の公演までに練習してもっともっと上手くなります!」
公演アンケートも全て良かった点と悪かった点をまとめていづみさんに提出もしたし、今後の舞台に活かしていかないと…だ。倉庫内の片付けもしなきゃいけないし…あれだけ広い倉庫だ、支配人だけに任せていたらいくら時間があっても足りないし、終わらない。
「春組公演はうまくいったけど、あと3公演無事に成功させないと劇団は潰れちゃうからみんなにもサポートして欲しい」
「もちろんダヨ!夏希に教えてもらって頑張るネ!」
「アンタのためなら、なんでもする」
夏組の脚本も綴さんが担当するようで楽しみだ。あと、残り3公演無事に終わらせないといけない。気を引き締めていづみさんのサポートしないと。
「残り3公演か、気が抜けないね」
「そうなんです。また、劇団員集めからやらないと」
「また、ストリートACTで集めますか?」
「一応ですが、千秋楽のフライヤーに夏組団員オーディションの告知を入れたから、誰かは来てくれるとおもいます。それに、スカウト枠で声をかけてる方はいるみたいなので何人かは集まるかと」
「流石夏希ちゃん…本当に助かるよ」
「いづみさんのサポートは任せてください」
「天使キタコレSSR?いや…URかな」
「至、姉貴から離れろ」
「無理、充電中夏希不足」
「まぁまぁ、真澄大人はいろいろあるんだって、たまには至さんだって甘えてもいいだろ?」
「はぁ!?なんで姉貴なんだよ!支配人でも甘えとけばいいたろう?俺は許さない」
「真澄、支配人と俺がイチャついてるの見る方が気分悪くなると思うけどそこはどうなの?」
「うーん、オレも見たくは…ないかな」
「ほら、咲也も言ってる。真澄には監督さんがいるだろ?オレには夏希が必要なワケ」
「至と支配人のセットは売れないネ!」
「私といづみさんをなんだと思ってるのよ…至重い…」
そう言った瞬間何処から出したのか私の口にマカロンを突っ込むあたり至は私の手懐け方を熟知しているようだ。
「私と夏希ちゃんセットとかどうです?売れると思いますけどねぇ!」
「それなら、亀吉と夏希ちゃんセットの方が100倍売れますよ」
「監督最近私に辛辣じゃないですか…」
「オッサンとJKをセットにスルナヨ!捕まるゾ」
「うるさい!私はまだ20代です!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ皆を見つめる。楽しそうでなによりだ。ジュースを一口飲んで、エントランスで会った男の子を思い出した。えっと…確か名前が…あっ、向坂椋君だ思い出した。彼がオーディションに参加してくれればいんだけど…そう思いながら、料理を頬張った。