巣立ち

佐久間君は昨日から入団したようだったが、どうやら未成年にも関わらず支配人は親御さんに連絡せずで監督さんに怒られていた。まぁ、そりゃそうだよね…確かに怒られても仕方ないかも。監督さんが電話している間の佐久間君は表情が暗くいつもの明るさがない…どうやら訳ありみたいだ。

いつも真面目で明るい佐久間君が終始表情が曇っているのがすごく気になった。電話は終わったのか佐久間君に笑顔でスマホを返し、私に向き直って監督さんは笑顔で笑った。

「という訳で…入団を認めてもらいたいなって思ってまして…お姉さんは、咲也君と同じ制服着てるようなんだけど…同じ学校なのかな?同学年って感じがするんだけど」

「あ、はい。佐久間君と私は同学年です。花咲学園高校に通ってます」

「成程…という事は未成年なんだね。真澄君、1度ご両親にきちんと話しておきたいから後で留守電にでもいいから連絡させて欲しい」

「…まだ付き合い始めたばっかなのに、もう両親に会いたいとか…照れる」

ずっと不思議な感覚で、違和感があると思っていたらコレだった。真澄だ…正直びっくりした。
何かモヤモヤするなと思ったらこれだ、あの真澄が監督さんにベッタリなのだ。そう、気持ち悪いくらいに…我が弟がストーカーぽい…怖い。

いや…でも付き合ってる?いや、そんな訳ないか。
監督さんの態度で絶対に付き合っている感じはしないし、真澄の一方通行か…いやいや、ストーカーだからてか、アンタが毎日うざがってる女子と同じ行動してるから!!

「ストーカー予備軍…」

「いや、もうたぶん手遅れだぞ」

「えぇ…身内から犯罪者が出るのはちょっと…」

ドンマイ…と苦笑いで突っ込んでくれるのは皆木綴さんという方でどうやらこの人も劇団員希望で本日入団したらしい。

「やっぱり出ないね、一応留守電には入れたけれど、今日は1度帰った方がいいかもしれないね」

「家に帰っても姉貴と2人、こんな時間に姉貴を外に連れ出すの、危ない」

「うーん、確かにそれもそうだね。この時間に2人で返すのも心配だし夏希ちゃんもここに泊まった方がいいかな」

「部屋はあと、103号室空いています。夏希ちゃんは監督の隣の部屋を使ってください」

「私まで…お邪魔してしまってすみません」

「大丈夫だよ!こんな時間にこんな可愛い子を放り出す方が危ないしね」

3人は部屋割りを決めるようで楽しそうだ。
それにしてもあの真澄が集団生活…なんてやっていけるのだろうか?ただでさえ協調性は無いし、他人に興味が無かったはずなのに、佐久間君に何があったか聞けば、監督に一目惚れしてるし。

正直頭が追いつかず混乱している。
ただ、真澄に友達が出来たら嬉しいなって思ってたから嬉しい。

「真澄、よろしくな」

「オレ、監督と一緒の部屋」

「却下」

監督さんに即断られて、真澄と同室になったのは皆木綴さん…溢れるお兄さん感…まぁ、皆木さんなら大丈夫だろう。たぶん…ごめんなさい、皆木さん。

「メシー、腹減ったゾー、おい、なんか食わセロ」

「あ!もう、こんな時間ですね!さあ、そろそろご飯にしましょう。今日は監督就任と新入団を祝って、ご馳走をつくりますから!」

鼻歌を歌いながらキッチンへと向かった支配人に手伝いますと言えば座っててくださいと言われ大人しくソファーに座る。

「にしても姉弟似てるな」

「そうかな…?」

「自分では分からないって言うもんね、けど私から見ても2人共似てるよ」

「学園内では凄く有名ですよ、美男美女姉弟って」

「ちょっと、真澄なにすんの」

「姉貴と監督に近づくな…」

真澄はいきなり皆木さんの手を引っ張って佐久間君の隣に座り直させ私と監督さんの隣に座る…どうしてそういう事しちゃうかなぁ…

「おいおい…普通に話してるだけだろ」

「姉貴に色目使うな」

「使ってないし…シスコンか…」

「なんか言った?」

真澄のせいで空気が悪くなっていく中、支配人がルンルンで、できましたよーと言うので食卓の椅子に座れば得体の知れないものがテーブルに並べられた。

お世辞には美味しそうとも言えない何かが置かれる、色も色だし…食材は大きくぶつ切り…。どうしようやっぱり真澄をここ、MANKAIカンパニーに入れるのは考え直した方がいいかもしれない危険だし、生命の危険を感じる。

「ほら、皆さん食べないんですか?さぁ!召し上がれ」

「こ、これは」

「別の意味での飯テロッスね…」

「きょ、今日はまだいい方だと思いますよ」

「まだいい方なんだ…」

これでマシなのか…いつもはもっと酷いと言うことだ。真澄に至っては食欲が失せたと言い出した。そりゃそうだ…正直私も食べれる気にはなれない。

「姉貴の飯じゃないとオレは食べない」

意を決した皆木さんが1口食べて死んだ表情をしていたから相当なのだろう、だがせっかく作ってもらって一口も食べないのは失礼だと思いスプーンを持った瞬間真澄に皿を取り上げられた。

「作り直しましょうか…」

「うん!カレーにしましょう!」

結局監督と一緒にこの得体の知れない食べ物を作り直すことに。監督は、カレーを私はサラダを作ることに…真澄をMANKAIカンパニーに入団させるのはやっぱり心配だ、生活の基盤は食事だし真澄は食事や自分の身の回りの事に凄く無頓着だそんな状態でこの劇団に入れるのは心配だ。

「んっ!美味しい…あの味がこんなに変わるんですね…」

「本当だ、美味しいですね…カントク、どこのカレールー使ったんですか?」

「カレールー?それって予め調味料も配合も決められた市販ルーの事ですか?」

「え?そうですけど…」

「そんなもの使うわけないじゃないですか。邪道傲慢カレーに対する冒涜です!」

どうやら監督は、とても稀なカレー奉行みたいだ。
だれも監督のスパイス熱弁を聞くことなくお代わりをしていく。まぁ、もちろん私もスパイスの話は右から左に聞き流してしまった、ごめんなさい監督。


皆で食べるからか、辛いのは苦手なはずなのに美味しい…びっくりするくらいスプーンが進んでいく。

「夏希 ちゃんが作ってくれたサラダ凄く美味しいね…これ、カレーに合うように作った?」

「あ、はい。ドレッシングをラッシーイメージして作りました」

「なるほど…!ドレッシングのレシピ教えてほしいな!これは絶品だよ!」

「ありがとうございます。メモに書いておきますね」

まぁでも食事なんてどうにでもなるか…和気藹々と楽しそうに食事するなんて殆ど無かったどことなく、真澄も楽しそうだ。

これなら、きっと真澄を快く送り出せる。あの広い家に1人は寂しいけれど私だって弟離れをしないと行けない年だし何年もそのままずっと一緒にとはいかない。

わかってるけど、わかってはいるけどモヤモヤしてしまう。真澄のため、と心に言い聞かせ笑った。

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