もどかしい気持ち
「あー、劇団のテレビ見たわ」
「あ、そうだ万里チケット買ってよ」
「いらねぇ、興味ねぇーもん」
「興味無いならまぁ仕方ないか…どうだった?テレビ?」
「あー、なんかあれだよな、1人イケメンいたくらい?あ、あとお前の弟が出てたーって校内でめっちゃ噂なってたわ」
綴の先輩、フライヤーと劇団のホームページでお世話になった三好さんの計らいでテレビに出演させてもらえることになり知名度も上がりチケットはどんどん売れていってくれてる。
報酬は夏希ちゃんと1日デートで!って言われたけど丁重にお断りさせていただいた。なんでかって?そりゃ真澄と至が怒るから、あの二人結構似た者同士と言うか…なんと言うか。
「あ、ねぇ、万里彼女できたってマジ?」
「あ?まぁな」
「私と放課後一緒にいて大丈夫?」
「あ?大丈夫だろ」
スマホをいじりながら至極めんどくさそうにそう答えた万里に嫌気がさして帰るねと伝えるとおーっとこちらも見ずに返事が返ってきたので教室を出る。
万里に彼女ができるのは高校に入ってから何人目なんだろうか、数え切れないほど見てきたと同時に私は万里の彼女にとって邪魔な存在でしか無い。
「ねぇ、アンタ考えたらわからない?」
「何が?」
「この子、万里君と付き合ってるんだよ?この子の気持ち考えたら?」
「別に私は、万里と何も無いしただの友達」
校門を出て1人で歩いていると背後から声をかけられた。私が万里と離れた途端これだ、だいたい私じゃなくって万里に聞けばいいじゃない。なんで、あの子と仲良くするの?仲良くしないでよって万里にアイツに言えばいいのに…
「碓氷さんって…万里君の何?」
「知らない。万里に聞いたら?私はただの親友だと思ってる」
「はぁ?親友?笑っちゃう。その容姿で万里君手篭めにしてセフレなんでしょ?」
「手篭めって…」
「ほんと、人の男寝取る天才だよね?もう万里君に近づかないでくれない?この子可哀想だし」
「じゃあ、寝取られないよう努力でもしたら?だいたい金魚のフンなんかつれてないと意見言えないようなやつに言われたくないかな」
「っ!アンタ!」
「ハイ、ストップ。えーと、君の彼氏さん?は寝取ってないと思うよ。彼女はオレの婚約者だし」
「いた「じゃあ、彼女送って帰るから、またね」
「はぁ!?何あのイケメン…婚約者?」
私の言葉を遮って至さんは私の手を取って歩く。なんで、貴方がここにいるの?なぜ私の手を取って歩いているのだろうか、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
「至ッ、手」
「別にいいよ。手くらい繋いであげる」
「苦しい」
「うん」
無理矢理車の助手席に座らされ、受け取ったペットボトルのお茶を一口飲めば少し落ち着いた。
「LIME送ったんだけど、見てなかった?」
「…見てない」
「そう、俺仕事早く終わったしこの前約束した買い物行こうかなって。行く?」
「行く…」
「よし、いい子」
私の頭を優しく撫でて笑顔でそう言った。イケメンってずるい…至は少し前のめりになってわざわざ私のシートベルトを締めてくれる、うん、イケメンってずるい。至の運転で車は無言のまま進んでいく。
「何があったか聞かないの?」
「そりゃ気になるけど、言いたくないなら無理には言わせたくないから」
「………友達…高校で凄く浮いちゃって、友達ができなかったんですけど唯一話しかけてくれて仲良くなった友達がいるんです、その子男の子で親友なの」
「僻みか」
「でもアイツも悪いんです。女の子取っ替え引っ替えしてて」
「まぁ、なんとなく気持ちわかる。俺も容姿のせいで僻まれる事多かったし…いつもああやって言われてるの?」
「……うーん、たまに…呼び出されて言われるくらいかな。気付いたらビッチとか言われるようになっちゃってて…てか、至!婚約者って何言ってるの!?真澄に聞かれたら」
「嫌だったらごめん。真澄には心配かけたくないけど、聞かれたらちゃんと説明するよ。なに?オレの婚約者は嫌?
「嫌じゃない、嫌じゃないけど…」
「まぁ、嫌なこと忘れてデートでもしようよ」
「至ってずるいよね…自分の事わかっててそう言う事サラッと言っちゃう」
「俺はずるい大人だからね」
至に約束通りカフェでケーキをご馳走してもらう。もちろん写真もばっちり撮って次回のみんなのおやつの参考用だ。雑貨屋に可愛らしい洋服屋さん、いろいろなお店を見て回る。
驚いた事に至はもっと興味無さそうにするかと思ったが案外買い物にも付き合ってくれる。うーん、案外は流石に失礼か…もっとゲームばっかりすると思ってた。
基本ゲームトークしながらなんだけれど、至のゲームトークは長いけど私に分かる様に説明してくれるから苦ではない、むしろ楽しいのだ。あっという間に楽しい時間は過ぎて、車に乗り込めば後部座席から可愛らしい小包を私の手に置いた。
「夏希、これあげる」
「これ、どうしたんですか?」
「うん、いつも食事作ってもらってるし、日頃の感謝かな」
「ありがとうございます…嬉しい」
手渡されたのは可愛らしくラッピングされている箱を開ければ淡いピンクのエプロンだった。毎日使っているエプロンはくたびれてしまっていてそろそろ新調しようと思っていた。
「似合うね」
「………やばい、泣きそう」
「貴重だな、写真撮っていい?」
「絶対嫌っ」
「まぁ、俺と婚約してるって事にしてていいから、綴も心配してたし、溜め込まないようにね」
「ありがとうございます…」
至と綴は私が溜め込んで悩んでいることがわかっていたようだった。寮に帰ってみんなに内緒で綴にお土産を渡せば嬉しそうにしてくれる。
自室に戻って本を机の上に置いて眠ろうとした時だった、スマホが震えてディスプレイを見れば万里の文字で画面をスワイプさせる。
"もしもし?"
"アイツから聞いたけど、マジ?"
"マジなわけないでしょ?アンタの彼女からお呼び出しを受けてアンタに近づくなって言われたから"
"チッ…あのクソ女"
"万里、いい加減女の子達を弄ぶのやめたほうがいいよ。自分に返ってくるよ?"
"うるせぇ、説教すんな"
虚しい通話音が聞こえてため息を吐く、万里はどんどんとやさぐれていってしまう。だんだんと私でも止められない所へと行ってしまうようになってきた。
また、ため息を吐いて、私は目を瞑った。