初めての公演

「あぁぁぁあ…」

「支配人、落ち着いてください」

「い、いよいよじゃないですか!私の方が緊張して足がガクガクしてきました!」

「落ち着いてください。テレビの宣伝もあってお客さんの入りも上々ですし…支配人が緊張すると私にもうつるのでやめてください」

「そうだね…私も緊張しちゃう…ここからは舞台に立つのは役者の彼らだけだし私達にはもう祈るしかできないね」

今日は心地よい春風が吹いており快晴で、ついに本番当日。今朝はみんなの表情は硬いかなぁと思っていたけれどそんな事はなくって今はどこかリラックスしていた。

「みんな、初めてを楽しんでね」

「はいっ!」

「っす!」

「わかった」

「楽しみたいね」

「ワキワキするよ」

「シトロンさん、ワクワクですよ……開演5分前です!」

「本日はMANKAIカンパニー春組公演、ロミオとジュリアスにご来場いただきましてまことにありがとうございます。開演に先立ちまして、皆様にご案内申し上げます。本公演中の録音、録画はご遠慮ください。間もなく開演致します。ご着席になってしばらくお待ちください」

支配人も陰で練習していた言葉だ最初は噛んでいたのにスラスラと読めるようになっていて安堵した…古市さんや、瑠璃川君、雄三さん、三好さん…いろんな人が見にきてくれている。

舞台は原作と同じイタリア、ヴェローナ。キャピュレット家とモンタギュー家が長きにわたって抗争を紡げている町から物語は、はじまる。大道具や背景も凄く綺麗で鉄朗さんを侮っていた。

「今日こそロザラインを誘うんだ…」

「この花をください。宛名にはロザライン」

「え?」

一幕は、ロミオとジュリアスの出会い。恋敵として出会って喧嘩をして打ち解けるシーンだ。今のところ何の問題もなくBGMも照明機材も全て順調だ。

第二幕は、親友のマキューシオにパーティーに誘われここで、ロミオとジュリアスが互いに仇敵の家の息子と知るシーン…綴さんは何か思う様子で凄く演技が変わった…凄くセリフの一つ一つがスッと入ってくる。

「ロミオ、失恋したんだって?気にするな、女なんて世界にごまんといるさ。気晴らしにパーティにでも出かけよう」

ここで、ロミオとジュリアスが互いに仇敵の家の息子と知るシーンか…ドキドキしてしまう。

「ロミオ…ロミオ=モンタギューだって?嘘だろ、本当にお前がモンタギュー家のロミオなのか?ロミオ、どうしてお前がロミオ=モンタギューなんだ」

「家も名も捨ててくれジュリアス。僕達にはもっと大きな夢があるじゃないか!」

「ダメだ僕は家族を捨てられない!」

咲也も真澄も生き生きと楽しそうに演じている…本当に、凄く楽しそうに…伝わってくるよ。悩んだ2人はロレンス神父に相談し2人で街を出る決意をする。

「応援します。争いの種が消える。それはいいこと、2人の旅路に神の御加護を」

シトロンさんが、毎日毎日凄く練習して苦労したセリフは綴さんのアレンジで凄く良くなったし、シトロンさんの練習があって言葉一つ一つに重みがある。

第三幕、冒頭の喧嘩を目にして早合点したマキューシオとティボルトの暗躍…

「ロミオ、お前は将来この街を背負って立つ男になる俺はそんな器じゃない。お前の横でサポートしてやるよ」

ロミオがキャピュレット家との決着をつけようとしていると勘違いしたマキューシオは、密かに準備を進めていた。ここからが、至さんの見せ場だ、

「モンタギューだって!?ジュリアス、こんな夜にそんな話をすると蛇が出るからやめなさい!いいか、地震雷火事モンタギューだ、そこまで怖くないが厄介な一家だから、いずれ駆除しなくては…俺はお前の事が心配なんだよ、ジュリアス。父兄弟である俺が守ってやらなくちゃ」

旅立ちの日に、キャピュレット家への襲撃を知るロミオ、もみ合いの中でティボルトがマキューシオを刺し、止めに入ったロミオはティボルトを刺してしまう。ここの殺陣は本当に圧巻で見ていてハラハラする。

第四幕、死刑を言い渡されたロミオを助けるためにジュリアスが奮闘する。1人、薬の材料を求めて旅立つジュリアス。そして、ロミオ死刑執行の日。死刑台の前に立つロミオ、剣を手に斬りかかるジュリアス…そしてクライマックスの殺陣。

何度も何度も練習した殺陣は2人の気迫が凄く伝わってくる…助けようとしていたジュリアスの変貌に観客もとまどっている。

ロミオの刑が執行され、絶望したジュリアスが服毒死。ロミオとジュリアスの葬儀だ…棺から蘇ってくる2人…ロミオに仮死薬を飲ませるために一芝居うったと打ち明ける。

「そもそも、僕は肉体労働派じゃないんだ、山登りなんてもう金輪際ごめんだからな」

「ごめんごめん、次は僕がジュリアスのために仮死薬の材料を取りに行くよ!」

「あんなことがそうそう何回もあってたまるか」

朝日を背にした旅立ちで終幕……割れるような拍手が会場を全体を包んで思わずぼーっとしたまま2人がいた場所を見つめている。終わった…観客の表情はまるで花が咲いたような満開の笑顔だ。

初めての公演

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