奪えない居場所
昨夜は気付いたら寝てしまっていたようで咲也はいなかったが、ベットで寝ていた…きっと咲也が寝てしまった私をベットまで運んでお布団まで掛けてくれたのだろう。着替えて、顔を洗って支度をするがやっぱり眠い。
「ふぁ…おはようございます…」
「夏希ちゃんおはよう。見て、真澄君が咲也君に教えてるの…嬉しいなぁ」
「ふふ、真澄が教えてるんですね」
目を擦りながら稽古場の中を見ると真澄が咲也のペースに合わせて殺陣の練習をしている。真澄も咲也もどこか楽しそうで安心した。これなら、いい感じで殺陣も進みそうだ。
「夏希ちゃんのおかげだね。ありがとう」
「え?」
「ごめんね、前に盗み聞きするつもりはなくて…聞こえちゃって」
「そうだったんですね、真澄も真澄なりに考えて、咲也の事が心配だったんだと思います」
「確かにそうだね。本当に良かったよ」
再びありがとうと言ったいづみさんは私の頭を優しく撫でてくれた。うん、早く真澄18歳になっていづみさんと結婚しないかな…そうなると私といづみさんは必然的に姉妹になれる…。真澄よ、早く射止めてほしい。
「2人ともおはよーダヨ!」
「監督さん、夏希、おはよう」
「はよっす」
「夏希どうしたネ?機嫌イイネ?」
「はぁ…真澄が18歳になるまでお預けか…」
「朝から物騒な話題やめてくれ…てか、そういう所姉弟だよな…」
テンポはゆっくりだけど、一つ一つ確認してやっと息があってきたようで一通り出来るようになっていた。
「2人ともいい感じじゃん」
「昨日特殊イベントでもあったの?フラグだった?」
「ワタシ、隠し選択発見したネ!」
「私はイベント発生させた」
「マジかキタコレ!攻略wikiにかいとこ」
「そこ、オタク用語で話さないって夏希まで!?いつの間に毒された!?」
どういう風の吹き回し?との質問に真澄は素っ気なくこれ以上足を引っ張られたくないからと話す。素直じゃないんだよね…こういう所でも私の弟は優しいんだよ。
「これなら本番に間に合うかもしれないね、あくまでも無理をしないって条件だけど。真澄君これからもリードしてあげて」
「わかった」
「ありがとう、真澄くん!オレ、頑張るよ!!」
入りますよーと支配人の声が聞こえてきて、可愛らしい衣装係の瑠璃川君が入ってきた、どうやら衣装が出来たようで今から1度試着して調整するようだ。
「すごいね!カッコイイよ!」
「イイネ!」
「デザイン画は見たけどこうやって実物見ると感動するね」
「中学生って聞いた時は大丈夫か?と思ったけど腕前はプロだ並だな」
「当たり前、サイズ合わせするから着て動いてみて」
いづみさんと1度稽古場から出る。こうやって衣装を着てみるとどんどんと進んでいるのが実感できるわけで、もう日数も残り少ない。支配人から入っていいですよーと言われ中へと入ればみんな似合っていてカッコイイ。瑠璃川君の腕前は本当にプロだ。
「うーん、胴回りがきつめかな」
「痩せろ」
「サイズ合わせとは?」
「ピッタリだよ!すごく動きやすいよ!」
「うん!いい感じ!」
「まあ、悪くない」
「うんうん!みんなよく似合ってるよ!こうやって衣装を着ると凄く舞台映するね」
「いよいよ、本番が近付いてきたって感じがしますね!」
「それで、客集めは順調なの?」
「え!?」
「え?じゃなくてチケット販売始めてるんでしょ」
「あ、あー、そういえばそうですね」
「支配人…?」
いづみさんをはじめ、みんなの表情が曇った。そうだ、さっき確認したら全部で5枚しかうれていないのだ、流石にマズイ。
「今何枚売れてるの?」
「さっき確認しましたが、5枚でしたね」
「5枚!?」
「私、鉄郎君、雄三さん、夏希ちゃん、亀吉…」
「全員身内だし、亀吉から金取っちゃダメだろ」
「あと、3週間だしこのままだとマズイですね…」
「やばげ」
「旗揚げ公演にして、サヨナラ公演ね」
「シャレにならないよね…」
「少なくとも、千秋楽は満員にしないとこの劇団は潰されちゃうんですよ!?支配人!なんでそんな大事な事黙ってたんですか!」
「すみません…」
そう言われて支配人は稽古場の隅でちっちゃくなってしまった。くよくよしていても、支配人を責めてもどうしようもない、ただ今は宣伝することを考えないと。
「とりあえず、私が支配人のフォローに入ります」
「夏希ちゃんありがとう…」
「にしても、このままじゃなんとか宣伝しないと全てにおいて赤字です。フライヤーもサイトもかっこよくなって新調したので観てもらわないと意味がないです」
「夏希、サイトのPVはどのくらい?」
「あれから、100上がったくらいかな…」
「少ないね、もっとサイトを見てもらえるように拡散しよ、俺のアカウントでも紹介するわ5万人くらいには観られてるし」
「すごいっすね!?」
「宣伝用にブログとか開設してもいいかも、団員が書けば、親近感持ってもらえるし」
「それじゃあ、サイトの方は詳しそうな至さんと夏希ちゃんお願いします。私たちは街頭でフライヤー配ろう」
いづみさんを筆頭にバタバタと慌ただしくフライヤーを配りに行った4人を見送った。
「ねぇ」
「ん?」
「………1枚ちょうだい。これで6枚なるでしょう?せっかく作った衣装たくさんの人に見てもらいたいし、宣伝する。」
「瑠璃川君、ありがとう!」
「うん」
嬉しそうに笑ってくれた瑠璃川君に天使…と崇めている支配人の背中を軽く叩いてサポートしましょうと言えば私の顔を見ても天使と呟いた…イラッとしたので睨んだ。