繋がれた手
一応私は受験生である。綴が通っている大学を受験予定で勉強をしていたが、行き詰まってしまった…糖分摂取しないと…と、少し甘いものが食べたくなって溜め息を吐いてから部屋を出る。
「あ、夏希ちゃんこんな時間にどうしたんです?」
「早く寝ないと、明日も学校でしょう?」
「勉強してたら甘いもの食べたくなっちゃって」
「そっか…そうだよね。夏希ちゃん受験生だもんね…明日に買い物行く予定だけど冷蔵庫何も無かった気がするなぁ」
「諦めて自室に戻ります、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
いづみさんの言う通り冷蔵庫を見たら何もなくて仕方なく部屋に戻って椅子に座るがダメだ。我慢できない…財布と携帯を持って自室の鍵を閉めた。
「あれ、夏希ちゃんどこか出掛けるの?」
「うん、ちょっとね、少し出かけてくるよ」
「危ないから気を付けてね」
「ありがとう」
咲也がお風呂から上がったようでニコリと笑って手を振ってくれた。少し違う人と話してるみたいだ、髪が濡れているところなんて滅多に見れないわけだし。
寮を出て1番近いコンビニへと向かう。みんなの分のアイスも買って帰ろうかな、お風呂あがりに映画でも観ながらみんなでアイスとか食べるの楽しそうだし。
「ありがとうこざいました」
バニラ、チョコレート、チョコミント、パフェ、氷菓など色々なフレーバーをカゴにたくさん入れて、やる気のなさそうな店員にレジをしてもらい受け取る。
寮まで我慢できず、袋を破ってバニラアイスを口に頬張れば甘くて冷たい、口で溶けるこの感覚がたまらなく美味しい。勉強してるといつも我慢できなくなってしまう。
「オネーサン、こんな時間にどうしたの?」
「おお、超美人じゃん!!」
「こんな時間に一人?危ないね、送ってあげようか?」
「おーい?無視は良くねぇんじゃね?」
こういうのは、スルーが1番いい。
無視して早歩きで歩けば、しつこくつきまとってくる…みんなに迷惑をかけるわけにもいかないし裏通りを選んで少し遠まりして寮へと向かう。
「おい、無視はねぇんじゃねぇの?」
グッといきなり引っ張られてよろける。
裏通りに入ったはいいけど、夜の22時だ人通りのない裏通りは誰も通らないだろう。
「美人だからって調子乗んなよ、まぁいいや付いてこいよ」
「やめて、離してっ」
「離してください!彼女は僕のです!」
そう聞こえて振り返れば咲也が私の手を掴んで私を引き寄せた。思わずびっくりしてギュッと咲也の手を握り返せば大丈夫だよと笑って握り返してくれる。
「あぁ?僕のですって、お前の彼女か何か?」
「んだよ、オレらが先に声かけたんだわ」
「夏希ちゃん、走るよ!」
「えっ!?」
咲也は私に微笑んで手を繋いだまま走った。
早い、けどなんだか気持ちいい背後では何か言ってる声が聞こえるけど無視して前を走る咲也に必死で付いてく。
全速力で寮まで走って、背後を確認すれば安心したようだ、私の手は繋がれたままニコリと笑った。
「大丈夫!?」
「だい、じょうぶっ、」
「いきなり走ってごめんね」
「うん、ありがとう」
「違う、大丈夫じゃない!こんな時間にそんな格好で、コンビニなんか行っちゃダメだよ!なにやってるの!?夏希ちゃんは女の子なんだから!一人で行くのは危ないよ!オレがいつでもついて行くから」
そう言った束の間、咲也は笑っていたはずなのに私の肩をギュッと掴んで真剣な表情でそう言った。
「ふふ、ありがとう」
「笑い事じゃないよ!何かあったらどうするの!?絶対にダメだよ!」
「うん、ごめんなさい。心配してくれてありがとう。咲也とってもかっこよかったよ」
咲也の顔は真っ赤になって繋いでいた手は離れた。
「ご、ごごごめんね!手を繋いだの!!本当にごめんね!」
「咲也が謝るの?寧ろ感謝しかないよ」
真っ赤になって謝る咲也にアイスを差し出せば嬉しそうに受け取ってくれた。
「でも、次からは俺もコンビニとかついて行くから、1人は危ないからやめてね」
「咲也、お兄ちゃんみたいだね」
「え!そうかなぁ?俺兄妹いなかったからそう言ってもらえると嬉しいな」
眠れないし、どうせなら夜更かししちゃおうということで私の部屋で咲也とアイスを食べながら映画を見た。手を繋ぐのは恥ずかしい…やっぱり慣れないなと思う。
「夏希ちゃん!!聞いたよ、昨日一人でコンビニに行ったんだって!?ダメでしょ!」
「え?そうなのか?夏希危ないだろ」
「で、でも咲也に助けてもらったし」
「咲也に助けてもらったから良かったんだろ?誰も来なかったから連れていかれてたかもしれないでしょ?気を付けなよ」
「夏希危ないから今度からはちゃんと亀吉連れていくネ?」
「いや、オウムじゃなんも出来ないっすよ」
「亀吉なら目ん玉抉り抜ける」
「マスミは過激ダナ」
「ご、ごめんなさい…」
「夏希ちゃんは女の子なんだから気を付けないとダメでしょう!今度からは22時以降は1人での外出を禁止します!」
「はい…」
いづみさんから怒られた後に春組全員から再び怒られたのは言うまでもない…