新たなる挑戦
各々のんびりと過ごしている。皆に珈琲やお茶を手渡せば喜んでくれるのでやりがいがある。今日も商店街で気になった豆を購入できたので凄く嬉しい。
「いづみさん!このケーキすっごく美味しいです!ありがとうございます!いづみさんは神様です…」
「本当に美味しいね、買って帰ってきて良かったよ。そろそろ私の事をお姉ちゃんと呼んでくれていいんだよ?」
「お姉ちゃん…幸せです」
いづみさんが買ってきてくれたケーキと今日買ってさっき入れたばかりの珈琲との相性は最高でとても、とても美味しい…至福の時間である。
「何、監督さんは夏希に餌付けしてるの?俺も餌付けしてお兄ちゃんって呼ばせようかな」
「人聞き悪いこと言わないでください!今日、買い物帰りに新しくケーキ屋さんがオープンしてたのでみんなにケーキ買ってきたんですよ。至さんの分も冷蔵庫にあるのでどうぞ」
「夏希ちゃん美味しそうにケーキ食べますね」
「甘いものが好きなんだって言ってたな。てか、こんな時間にケーキ2個も食べていいのか?」
「つづるん!甘いものは別腹だよ」
「もうその呼び方やめてくれ…つか、口にクリーム付いてるぞたくっ」
「つづるんはお兄ちゃんですね!」
私の口をティッシュで拭って困ったようにため息を吐くクリームがなんだ!勿体ない…いや、食べ方が悪かった私も悪いがタルトがフォークで割れない、それはそのまま食べるしかないじゃない!
「だから、呼び方!」
「イチャイチャするの禁止、姉貴俺が取ってあげる」
「真澄、食べたら、わかってるよね?」
「ハイ」
「あ、あの真澄くんが固まった…」
「監督、三好さんから連絡があって、サイトできたらしいっす」
至が半分ケーキを割ってお皿に乗せてくれる。
神か、神様か!今度至のためにガチャ引いてあげよう…
「え、もう!?」
「早いですね」
「どんなのかな」
「きっと蛍光色ね」
「いや、ああ見えて腕は確かなんで」
みんながワクワクしている。PCで公式サイトを開けばカッコイイ公式サイトが上がる。ケーキを食べ終えて皆の後ろから覗き込む、おお…本当にすごいカズくんの腕前はプロだ。前のサイトから時が進んだようで本当に良かった…
「これでお客さんがっぽがっぽネー!」
「そうだね!集客があがりそう!よし、私たちも頑張って舞台のクオリティを上げよう!」
「おう、なんか盛り上がってんな」
どうやら雄三さんが来たみたいで近くでワークショップがあったらしくついでに寄ってくれたそうだ。
急ではあるが、みんなが特別メニューをこなして、技術的にも気持ち的にも変わった…私も毎日稽古を見学させてもらってるが日に日によくなっていってるのが見てわかるのだ。
「それじゃ、みんな通し稽古から!」
全員がいつも通り全力で演じきった後、雄三さんは何も言うことなく悩んでいるようだ。
「タメが長い…」
「うう、ドキドキします」
「キンチョーするネ」
「一思いに言って欲しいね」
真澄は黙ったままいづみさんをジーッと見続ける…そこは雄三さんでしょう…長い沈黙のあと、雄三さんはため息を吐いてこちらを見上げた。
「……悪くねぇ、短期間でよくここまで伸ばしたじゃねぇか」
「やったぁぁぁ」
「うっし!」
「当たり前だし」
「はぁ、やれやれ」
「見事ぎょふんと言わせたネ!」
「シトロンさん、ぎゃふんですよ」
雄三さんに認めて貰えたことで全員が嬉しそうで表情が明るい。そう言った雄三さんは少し悩んだような表情を見せた。
「ただし、クライマックスに盛り上がりがねえな、終わりがどうもあっけねぇ」
「盛り上がり…それは、脚本のせいっすか」
「いや、どっちかっつーと演出だな」
「盛り上がり…か。うーん…どうすれば」
「オレ、歌いましょうか!?」
「咲也…突然ミュージカルは…違うんじゃない?」
「ロミオが死ぬ?」
「真澄…それは、びっくりするし話変わっちゃう」
「ラスボス登場」
「私脱ぐよ」
「至さんまで…だいたいシトロンさんが脱いだ時点で劇団は潰されますよ」
「夏希ちゃんの言う通りだよ。話の流れを阻害するようなものは演出とは言わないよ。あくまでももっと話を盛り上げて、よくするよくなものでないと」
「終盤のロミオとジュリアスのシーンに、簡単な殺陣を入れてみたらどうだ?」
「殺陣ですか?でも、殺陣の練習は全然…」
「短んシーンで集中的に練習すれば、今からでもなんとかなるだろ」
「私も殺陣に関しては、指導出来るほどの経験がないんです」
「俺が直々に仕込んでやる、俺だってMANKAIカンパニーには恩があるのよそれに、お前らの熱気にあてられちまった、みっちりしごいてやるから覚悟しな!」
キッチンにみんなのドリンクを取りに戻ろうとしたら扉の前には支配人が少し泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。
「支配人?」
「なんだか、本当に嬉しいです。こうやってMANKAIカンパニーに活気が戻って」
「そうですね、これからもっともっとサポートしましょう?MANKAIカンパニーのために、支配人は必要不可欠なんですから」
「夏希ちゃぁぁぁあぁあん」
支配人が抱きついてきた瞬間におもいっきり真澄に殴られていた…とても、痛そうな支配人をほってドリンクを持って稽古場へと戻った。