春は出会いの季節
「じゃあ、頼んだぞ」
笑顔で肩をポンポンと叩く担任をぶっ飛ばしたくなった。なんで私が…確かに今日は日直ではあるが担任の雑用係ではない、いや実質担任の雑用係なんだけど、ため息を吐いて受け取ったノートを持って教室へと向かう。
放課後、部活動をする声が廊下には響いてきてピカピカの制服を着た1年生が楽しそうに部活動を見学している…なるほど私はどの部活にも入ってないからこうやって雑用係のままなのか。
ぼーっと窓の外を見ていれば、ドンッと身体に衝撃がありノートがバサバサと廊下に落ちる。はぁ…前を見てなかった私も悪いけど、いきなり突っ込んでくることないじゃない。
「ご、ごめんね、拾うよ!」
「佐久間くん、ありがとう」
「いや、俺のせいでごめんね…怪我とかしてない?」
ぶつかってきたのは佐久間君だったようで凄く謝られる。うーん、ぶつかってきたのが佐久間君なら許そう、彼とても優しいし。
「うん、怪我してないから大丈夫だよ。急いでるみたいだけどいいの?」
「あぁ!時間っ!本当にごめんね!」
バタバタと走って行った佐久間君のあとを眺める。本当に時間が無いみたいだ。ちゃんと謝ってくれたし怒る必要性もない、怒るならば私にクラス分のノート押し付けた担任のせいである。
手元が軽くなって右上を見上げれば困ったように笑う万里がいた。あ、そうだそうだ今日は一緒に帰る約束してたんだった。
「ほんと、鈍臭いな…大丈夫か?」
「万里、ありがとう」
「おう、遅くて迎えに来た」
「ありがとう、助かるよ」
今日は一ヶ月前から万里と出かける約束をしていたのだ、なんでもゲーム?のなにかの発売日だそうで私は全然知らない。どうしても限定の何かが欲しくらしく一緒に来てくれと頼まれ続け私が折れた。
「お前の弟ほんっと人気だよなー」
「あぁ、真澄?人気っても顔だけでしょう?あの子愛想悪いし他人に興味ない!ってオーラ出しまくりだから。って言うか万里も人気者でしょ」
「けど、シスコンだよな…オレは関係ねぇだろ」
「アンタ達2人とも早く私離れして欲しいんだけどね…」
「俺が居なくなったらお前ぼっちじゃねぇーか」
「そんなことない」
「あるわ!まぁ、美人な姉を持つ弟も美男な弟を持つ姉も大変だな。さっき、女子から追いかけられてたわ」
「万里だってよく追いかけられてるじゃん。お姉さん凄く美人だったし」
「まぁなぁ…俺の中では姉って女王様って感じだったけどお前は違うよな、ちゃんと家のことして、弟の面倒も見てって…オカンだな」
私を見て笑いながらそう言った。酷い…まぁ、確かに家は両親は仕事で帰ってこないし正直何をしているか全くもってわからない。毎月口座にお金が振り込まれてそこからいろいろと生活費だったり、光熱費だったり…とお金のやりくりをしているわけで….オカンがどんなものかは知らないが万里がそう言うという事はオカンなのだろう。
「おい、もう時間遅せぇけど大丈夫なのか?」
「あぁちょっと待って、真澄に連絡いれる」
案の定万里に色々付き合っていたら遅くなってしまって真澄にLIMEを送ったが既読は付かない。そろそろ電話をしようと思った矢先真澄から電話が掛かってきた。
【あ、もしもし真澄?ごめんね】
【あ、あの私MANKAIカンパニーの立花と申します、碓氷真澄君の保護者様ですか?】
【えっと、あの、姉の碓氷夏希です】
【あ、お姉様でしたか。本日なのですが、碓氷真澄君をスカウトさせて頂きましてMANKAIカンパニーに入団してもらいたく入団許可を頂けますでしょうか?】
【劇団!?真澄がですか!?えぇ…ちょっと本人と代わっていただけますか?】
【も、もちろんです!】
【姉貴?ココに今すぐ来て】
真澄に代わると早口でそう言われ、持っているスマホからはツーツーと音が流れる理解が出来なくてぼーっと道の真ん中で立ち尽くす…え?あの真澄が演劇?劇団?MANKAIカンパニー?LIMEを開けば真澄からは住所が添付されたメッセージが送られてきている…マジか…
「なんかあったのか?送るわ」
「あ、ありがとう。万里この住所わかったりする?」
「ん?あぁ、わかんぞ」
万里に送ってもらい着いたのはいいがとても大きい建物で中に入るのは気が引ける…本当に大丈夫なのだろうか?
「万里、付き合わせちゃってごめんね。ありがとう」
「あぁ、別に近くだし何かあったらすぐ電話しろよ」
「うん、わかったまたね!」
「ん」
心配してくれた万里は一緒に付いて話を聞くと言ってくれたが、断って別れる。意を決してインターホンを押せば電話で話したであろう立花さんが快く迎え入れてくれ、部屋に通されて3人で向かい合って座る。
「MANKAIカンパニーの演出家兼総監督の立花いづみです。よろしくお願いします」
「碓氷夏希です。よろしくお願い致します…真澄、一方的に電話切らないでっていつも言ってるじゃん。劇団ってどういう事?芝居や舞台に興味なんてなかったじゃない」
「オレはやる」
「生半可な気持ちでやったらダメだよ。真剣にやるって考えて決めたなら反対はしないよ。応援する。立花さん、不束な弟でご迷惑おかけするかとは思いますが、よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそよろしくお願い致します」
どうやら気遣ってもらっていたようで、入団が決まると安堵した表情で3人の男性が入ってきた。中には、隣のクラスで放課後に会った佐久間君がいて、ルンルンでエプロンつけた男性と背の少し高い猫っ毛の男性が立っていた。
「やっぱり今から来るのって夏希ちゃんだったんだね」
「姉貴の事を軽々しく呼ぶな」
「真澄うるさいから」
「おぉ、そっくり…流石姉弟…中身は違っても容姿は似てる…あ、皆木綴ッスよろしく」
「よろしくお願いします」