至の本音
いづみさんに頼まれていた仕事も終わった後、至に呼ばれて部屋に来てるは良いがここ2時間くらいずっとゲームをしている…のはいつもの事だが至にいつものキレがない。
「至、右から攻撃きてるよ?」
「…………」
「至っ、あっ、やばい!…死んじゃった」
「…………」
「至さん、ゲーム機こわしていいですか?」
「…………」
おかしい、あの至さんに対してふざけてゲーム機を壊す、と言ってみたのになんの返事も帰ってこない。いつもならブチ切れてるだろうに…コントローラーは動いているが殆ど無意識で動かしている。怖い。
「至…何か悩み事?」
至が持っていたコントローラーを取り上げて机に置く、テレビは一旦消して至に向き直った。
「ん?え?」
「この最近上の空だよ?何かあった?ゲームやってて、上の空…なんて至じゃないよ」
至のお部屋にお邪魔させて貰ってゲームを一緒にしたりする時間が増えた。主に教えて貰っているんだけど、前まではもっとキレもあったし、暴言も吐いていたはずなのに信じれないくらい静かなのだ。本当にここ最近は上の空で心配だ。話しかけてもボーッとしてるし…
「はぁ…俺さ劇団やめようと思うんだよね」
「なるほど」
「もともと、浮いた家賃と食費をネトゲにつぎ込もうと思って劇団入ったんだ。演劇にも興味は無いけど稽古に出て、脇役くらいなら何とかなると思ってさ」
「うん」
「ほら、それなのに結構セリフは多いし、みんな一生懸命やってて俺だけ場違いな気がしたんだ」
「今のうちにやめたら次の人探すの楽になる…か…」
「うん、そうなんだよね」
思ってたよりも深刻だった。雄三さんから言われていたようにやる気がないのも気がついていたし、ゲームに人生を捧げてる人なんだろうなぁとは思っていたけど…辞めるって選択肢が出てくるとは思ってはなかった。
「なんで、それを私に話したの?」
「中立な立場だからかもしれない…夏希とは素で居られる。それに、俺は咲也や綴みたいにみんなと打ち解けて一緒に頑張っていく事なんてできない。オレは、人と深く関わることが苦手なんだ。共同生活だって、あんまり好きじゃない…だから、咲也達みたいに全身全霊で舞台に打ち込むのはきっと無理な気がするんだ」
「私とは打ち解けてくれてるのに…?」
「夏希は特別だね」
「特別ですか…咲也達との温度差が至が辞めようと思った本当の理由なの?でも、少しだけ至の気持ちはわかる。私、みんなと打ち解けたり一緒に頑張るって事を全くした事がないの…部活とか入ってなかったから…真澄といつも2人だった…だから、怖いよだけどっ…」
「このまま、俺が続けてみてやっぱりダメだったら皆に迷惑かかるだろう?」
「引き止めることも引き止めないこともできるよ、だけど私は至がここにいてくれれば嬉しい…せっかくゲームに興味を持てたし、お兄ちゃんが出来たみたいだし。それに、ティボルトは至だけの役だよ…でも、至が本気で決めたなら無理強いはしない。いづみさんときちんと話してみて」
「わかった、ありがとう」
「うん、今日は部屋に戻るよ」
「ごめん」
私も至と同様すごく怖い。
人を信じたって何もいいことがないのだ。何度も何度も裏切られた。私には、真澄と万里だけでいいと思ってた時期だってあった。
だけど、そうじゃないとこの短期間で学ばせてもらった。人と関わりを持つ大変さ、大事さを。至から話された話を誰にも言わず稽古後、いづみさんから話があると持ちかけられ、聞いてみれば至が話した内容をそのまま聞いた。いづみさんには相談してくれたみたいで少し安心した…よかった。いきなり出ていく!とかならなくて…だけれど、みんな驚きを隠せないようで沈黙が続く。
「やめたければ、やめれば?やる気がないならやめればいい、あのおっさんも言ってた」
確かに雄三さんはそう言ってた。だけど、きっとそれは至が迷っていたのを見抜いてそういったんだと思う。
「そうそう、潮時だと思う。もしやめても、みんなの事は応援してるからさ」
「まだ、やめるって決まったわけじゃないですよね!?」
「まぁ、そうだけど」
咲也も綴さんもすごく必死だ。"ゲームよりも舞台の方が面白い"か…確かにわからない。至もすごく、本気で迷っている。
「わからない。ゲームより面白いものなんてなかったし」
「確かにゲームは最高のエンターテインメントね」
「舞台だってそうです!」
「……だから、こういう咲也との温度差もあるし」
「舞台にかける情熱は人それぞれです。比べてもしょうがありません。それよりも、至さんがみんなと舞台をやっていきたいか、どうか。大事なのはそれだけなんです」
「………」
「どうですか?」
「考えさせてくれ」
「はい、もう一度ゆっくり考えてみてください」
いづみさんのその言葉で解散となり部屋には至さんといづみさん以外が残る。
「皆さんにお願いがあります!」
至を追いかけようと思ったが、そう言った咲也に振り返って結局追いかけなかった。