親愛なるキス

「トイレットペーパーも…無いの?」

支配人に任した私が悪かった。ちゃんと必要なものをメモに書いて買ってきて欲しいと頼んでいたのだがどうやら忘れてしまってたみたいでいろいろと必要なものが足りなくなってしまった。

生活する上で、トイレットペーパーは必需品だ。

「あ、夏希ちゃんこれも追加で買ってきて欲しいです!」

メモを渡されて見てみると私が頼んだメモじゃん…と言いたいのをグッとこられた。私大人…偉い。と自分で自分を慰める。

「夏希どうしたネ?パトカーが鉄砲食らった顔してるヨ」

「ハトが豆鉄砲…治安悪すぎ。私今から買い物行って来るね」

「おお!ショッピングね!一緒に行くネ!夏希とショッピングデートネ!」

「え、シトロンも付いてきてくれるの?」

「モチロンネ!」

トイレットペーパーにティッシュ、いろいろ必要なものが多すぎる…これは、至に頼んで車を出してもらった方がいいかもしれない。なんだかんだ、優しいし割とすぐ車を出してくれる…この前新商品のアイス食べたいと言った時も隣町のコンビニまで連れていってくれたのだ。運転中隣でゲームをやると言う条件で、だけど。

「よし、買えたよ」

「荷物持つネ」

「ありがとう」

さっと袋を持って私の肩を持ってシトロンは車道側を歩く…こういったさり気ない紳士な面が未だに慣れない。しかも、イケメンときた、雰囲気は異国の王子様どうやらここ商店街のおばちゃんにも人気なようだ。

「シトロン…?どうしたの?」

「しっー」

「え?」

「なんでもないヨ!次はドラッグストアネ!」

「いやいや、流石に気になるよ?どうかしたの…?あ、もしかしてあのカレーパン食べたいの?」

「もうカレーは勘弁ネ」

シトロンは誤魔化したようにそう言って笑った。
明らかに先程と様子が違う…何かに警戒してたし少し怯えていたような気さえする。

「夏希っこっちへ」

急に手を取ってシトロンは走り出す。私はシトロンに黙ってついて行く、確かに何かに追われているような気がするしもしかしたら後をつけられていたのかもしれない。

「どうしたの?」

「黙って」

シトロンは、普段からは想像も出来ない程冷静にそう言った。通りの方を気にしているようでいつになく真剣だ。

「もう、追っ手がここまで…」

「追っ手?」

「ワタシ、劇団に迷惑かけるかもだヨ」

「どうして?」

「実は、ワタシ留学しに来た訳じゃないネ…国から逃げてきたネ」

「……なるほど…」

確かに雰囲気は異国の王子!ってイメージがあるし浮世離れした感じはあるもんなぁ…なんとなく納得してしまったけど私の妄想に過ぎないから黙ってシトロンを見つめる。

「追っ手に見つかると、連れ戻されるヨ」

「困るねそれは…シトロンはこの劇団の一員だからいなくなったらみんな寂しいよ…」

「ワタシ、悪いことしてないネ…奴らにとってワタシは目障りだヨ」

「わかった。シトロンを信じる。シトロンが悪い事してないなら、何も問題は無いよ?シトロンが見つからないように私も協力する」

「どうして、そこまで言ってくれるネ?」

「家族だから。私とシトロンは家族だよ」

ーーー、シトロンが何か言ったけれどよく聞き取れなくてもう一度聞き返せば、ありがとうという意味だったらしい。

「私こそありがとう」

「ありがとうネ」

頬にふわりと優しくキスされた…優しくシトロンに抱きしめられるとシトロンの背中に手をゆっくり伸ばせばぎゅっと力が入った。シトロンの頬に優しくキスを返せば笑顔でシトロンは微笑んだ。

「頬にする、親愛のキスだヨ」

「日本ではあまりないけどね」

本物の王子様みたいに優雅な仕草は本当に綺麗だ。無駄がないと言うか品性と気品あるのだ。本当に、シトロンは何者だろうかと考えたが分からないのでやめた。

「あ、いづみさんから電話だ!」

「カントクネ!」

「シトロン!至が迎えに来てくれるって!それまでドラッグストアで買い物しておこう!」

「いいアイデアネ!」

荷物が多くなりそうと判断してくれたみたいで、仕事終わりの至に連絡してくれたらしい。シトロンと手を繋ぎからドラッグストアまで向かった。店内をゆっくり見て回ってると他のお客さんがヒソヒソ話している声が聞こえる。うーん…シトロンはイケメンだし、目立つよね…

「夏希こっちにいろいろあるネー!」

「ハンドクリームかぁ…そろそろ無くなっちゃうね」

「これ、いい匂いネ!」

「ジャスミンのいい香り…」

ジャスミンのいい香りがするハンドクリームを試してみればベタベタにはならないししっとりしていて手に馴染む。ジャスミンのハンドクリームを購入して外に出る。

「シトロン、手を離そうか?」

「あ、至!ありがとう」

迎えに来てくれた至はシトロンが持ってくれている荷物を半分受け取ると、私の手を繋いでくる。左にはシトロン、右には至…私は子供か!とツッコミを入れたくなるが諦める。

「至が最近真澄に似てきた…」

「至は、本当に夏希が好きネ」

「そういう、シトロンもでしょ」

「夏希は、本当に愛されてるネ!」

「だからってこんな場所で両手を繋がれるのは割と恥ずかしいからね?」

親愛なるキス

- ナノ -