毒舌お針子ボーイ
「よっし…と。これで全部かなぁ」
今日は天気がいいついつい、クッションカバーやシーツや枕カバーまで大量に洗濯してしまったもの達をやっと干し終わって一息つく。
「夏希ちゃーん!ありがとうございますー!お陰で溜まっていた洗濯物がスッキリしましたよ!流石です!」
「さすがです!じゃないですよ、支配人。使えるものは使えるものとして利用しないと新しいものばかり買っていく訳にはいきませんよ?こういった衣装も手洗いして綺麗にすればまだ着れますよ」
「では、夏希ちゃんに任せます!」
はぁ…とため息を吐く。逃げた支配人にはこの大量の洗濯物を畳んでちゃんと直してもらおう。少し休憩したい…流石にこの量の洗濯物は疲れた…椅子に座って紅茶をひとくち飲めば、インターホンがなった。
開ければそこにはとても可愛いワンピースを身にまとった女の子がいた。誰かの知り合い?いや、もしかして劇団員希望?どうやって断ろうかな…困ったな。
「衣装係募集中ってのを見て来たんだけど」
「あぁ、お名前は?」
「瑠璃川幸」
「綺麗な名前」
とりあえず、入れてと言われてハッと我に返り上がってもらう。瑠璃川幸綺麗な名前だなぁとぼんやりと考えたままフリーズしてしまっていた。
「ふーん、まぁまぁいいんじゃない」
「ん?」
「なんでもない。こっちの話」
「気になる言い方するね…」
「あぁ、スタイルだけはいいから服なんでも似合いそうだなって思っただけ」
「なるほど…」
スタイル…だけは…可愛い子?なのだろうか、本性はわからないが、彼女を中に入れてさっき逃げていった支配人を探せば倉庫で荷物整理をしていたらしく、ちょっと埃っぽい。
「あれ、夏希ちゃんのお知り合いですか?」
「あ、支配人。衣装係の募集見て来てくれたみたいです。なので通しました」
「本当ですか!監督の所にいきましょうか!今は稽古してるはずです!」
「じゃあ、採寸もできそう?」
「うん、出来ると思う」
稽古場へと向かえばいい雰囲気で練習できてるようだ。だけど、気になるのは至さんで心ここにあらずという感じでボーッとしている。最近ではゲームしている時でもボーッとしている時間が増えたから心配だ。
「ご紹介します!新しく衣装係として応募してきてくれた、瑠璃川幸くんです!」
「どーもー」
「女の子?」
「は?」
「あ、ご、こめん!違うんだ」
瑠璃川幸くんは中学三年生なのにとても可愛らしい容姿をしている…私負けたかも…てか、本当に可愛い。所謂おとこの娘ってやつで、顔に似合わず超絶毒舌だけど。
「はぁ…とりあえず公演まで時間ないって聞いたから、ざっと役者を確認しときたくてで?主演は?」
「あ、オレ佐久間咲也!よろしくね!」
「…元気100%濃縮還元って感じ…4/1くらいで薄めよう…」
「ジュリアス役の私の弟、碓氷真澄と、姉の碓氷夏希です」
「サイコストーカーと、姉。そこの村人cは?」
「俺かよ!?オレは、マキューシオで皆木綴…夏希笑うなら笑え!余計傷つくだろ!?」
「オレは、ティボルト役茅ヶ崎至」
「インチキエリートって感じ…」
「ワタシは、神父役のシトロンダヨ」
「インチキ外国人…と」
元気100%濃縮還元…サイコストーカー…それに村人cとインチキエリート、インチキ外国人。どうやら、かなりの毒舌さんらしい。どうしよう…個人的に綴の村人Cにツボってしまった。
「最後に私が、監督の立花いづみです」
「じゃあ、ざっとデザインのラフ書いてくるからまた、打ち合わせってことで」
「うん、よろしくね」
軽そう言って出ていった瑠璃川くん。中々の瑠璃川くんもパンチがあったというか…あんまり人のこと言えない毒舌ボーイな気がする。
「えっと…その方は?」
そういえば、いつの間にか支配人の隣に立っている背の高い男性は誰だろう?そう思って聞けば、前代の春組でもお世話になっていた大道具を組み立ててくれる鉄郎さんと言う方らしい。
鉄郎さんの声が私達には全く聞こえない…もちろん、監督でさえも…だけど、支配人は付き合いが長いからかわかるようで楽しそうに話している。
「衣装に大道具ってなんだか、いろいろと進んできた感じかしてワクワクするね!」
「うん、そうだね。咲也頑張ってるもんね」
「姉貴、俺も頑張ってる」
「うん知ってるよ。みんな、みんな頑張ってここまできたんだから、あとは全力で芝居の練習あるのみだね!」
「もちろん、姉貴はちゃんと俺の事見ててくれるでしょ?」
「当たり前じゃない」
「ふふ、夏希ちゃんと真澄くんは本当に仲のいい姉弟だね、見てて羨ましいよ」
いづみさんには兄弟がいなく一人っ子だったみたいなのでこうやって大人数で生活するとかは憧れだったそうだ。これからもっとたくさんの思い出がつくれますようにと、願った。