おやすみシアター

雄三さんからの言葉が効いたのだろう、みんながみんな今日は静かだった…何か力になれればいいけど、まぁ、それも無理な話だ。やってるのは本人達なのだし…

いろいろと考えながら、お風呂から上がって自室に戻る途中咲也と綴さんが真剣な表情で話し込んでいて、揉め事…もしかしてまた真澄が?いや、でも、どうなんだろう。

「咲也、綴さんどうかしたの?」

思わず声をかけてしまった…咲也は自分のお布団を持ってどこかへ行ってしまいそうな勢いだったからだ。

「実は…雄三さんに言われた言葉が忘れられなくて眠れなくて…オレ舞台に立ってるだけで幸せで満足して全然舞台のことなんて考えてなかったんです…このままじゃ続けられません」

「まさか、出ていくってんじゃ!」

「え?」

「だから、少しでも舞台のことが分かるように、舞台の上で寝てみようと思って」

「え?」

「は?」

思わず綴さんと声が被ってお互いに顔を見合わせた。そりゃそうだ、舞台の上で寝る?え?今から?そのお布団持って舞台の上で寝るの!?

結局、咲也に連れられてみんな付き合うことになって私も同じく参加する事になったのはいいけれど…真澄と一緒に寝るらしい、真澄は嬉しそうだけど…なんで一緒に寝なきゃいけないのよ…とも言えるはずもなく苦笑いするしかない。

「至さんも、夏希ちゃんも付き合わせちゃってごめんなさい」

「私は、眠れなかったからそれに、なんだかパジャマパーティーみたいで楽しい、ワクワクするよね」

「俺はゲームと夏希があれば別にどこでも寝れるから」

「至と一緒にいたら妊娠する、姉貴はこっちで寝て」

「しません。馬鹿なこと言わないで」

「怒ってる姉貴も可愛い」

「合宿みたいで楽しいヨ!」

「シトロンさんの国にも合宿ってあったんですか?」

「モチロンダヨ。キャンプ張って敵に見つからないように寝るネ!銃弾の音聞きながら寝るヨ」

「それ、なんか違う!」

「シトロンさんの国は紛争が多かったんですかね?」

「うるさい」

「oh!ソーリーソーリー」

お布団の中に入って寝る前に話す感じは本当に合宿みたいでワクワクする。部活にも入ったことないしこうやって皆で円になって寝たり…というのは本や漫画の世界でしか分からなかったから凄く新鮮だ。

舞台の上は静まり返っていて誰も話さない。もしかしたらみんな寝たのかもしれない。真澄と少し背中が触れて目を閉じだ。もう寝よう、じゃないと明日も朝食を作らないといけない。

「あの…みんな、起きてますか?」

「起きてる」

「今日の雄三さんの言葉聞いて、どう思いました?」

「むかついた、知ったようなこと偉そうに言いやがって、と思った」

「うざい」

「正直、厳しいと思った」

「ムチ打ち快感思タネー!」

「変態か!!」

すかさず綴さんのツッコミが入って笑ってしまう。
確かに、今必死で頑張ってやってきて急にきつい言葉を投げかけられたらムカつくし、厳しいと思うのだろう。

「夏希ちゃんは、どう思います?」

「私は、言わなかったんだけど。仲良しこよしじゃだめだと思う。雄三さんの言葉はごもっともだと思うよ。けど、みんな凄く凄く真剣にお芝居に取り組んでるからこそ言いたくなっちゃうじゃないかな?」

「うん、オレも最初は酷いと思ったんですけど、雄三さんの言うことはもっともだし、アイのムチなのかなと思うようになりました。カントクも最近オレたちの稽古を見てなやんでるみたいでしたし」

「立ち稽古始まったあたりだな」

「真澄くん、気づいてたの!?」

「あいつのこと1番知ってるのは俺だから」

「監督も俺らの芝居に満足してなかったってことか」

「多分それで、目を覚まさせようとしてくれたんじゃないかと思うんです」

「まさに愛のムチ打ちネー!気持ちイイネー!」

凄く感動していたのに、シトロンさんの急なボケが入るから笑っちゃう…だけど、本当にシトロンさんがいてくれるおかげで春組は明るくなる。春組のムードメーカーだ。

「でも。そうだな。客の言葉に一々反発しても仕方ねぇよなあれを糧にしないと」

「そうですよ、オレ舞台のこともっともっと知りたいです!もっともっと芝居が上手くなりたい!」

「俺も、あの雄三さん見返してぇ」

「シーっ…そろそろ寝ないと、夏希も寝たし明日遅刻しちゃうよ」

薄れいく意識を手放す前に優しく撫でられた気がした。おやすみってみんなの声が聞こえて幸せだ、どんどん家族という形になっていく。

"おやすみ、みんな…頑張ろうね"

優しい声が聞こえたような気がした…

おやすみシアター

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