険悪

「えっと、あの…茅ヶ崎さん。近いです」

「ちっ…」

舌打ちをされて茅ヶ崎さんはどかっとソファーに座って私を見上げた。怒っていらっしゃる…でもおかしな話だ!私は、台本届けに来ただけだし。それに、体調が悪いって言うから飲み物持ってきただけなのに怒られるとかどんな理不尽だ!

しかも、持っていくって約束したよね!?別にいいけど!理不尽だな!おい!

「…茅ヶ崎さん、ゲーム好きなんですね」

「好きだけど、ナニ、悪い?あぁ、俺が似合わないとか?」

「そんなこと思ってないですよ。趣味があるのはいい事だと思っただけです。そもそも、私ゲーム嫌いじゃないですよ」

「………はぁ?」

「これ、いづみさんから預かってきた台本です。明日から読み合わせするそうですよ………って、どうしたんですか?」

「え?ここは、キモイとか、イメージと違ったとか言われると思ってたからびっくりしてる」

「他の人と一緒にしないでください。だいたい、茅ヶ崎さんが壁作ってたのは知ってましたし、ゲーム好きなのは知ってましたよ?」

「え?マジで?」

「マジです。茅ヶ崎さんのハンカチとかゲームの特典でしょう?友達に、ゲーム好きがいるのでわかりました、それにちょくちょく携帯触ってますし」

「なんだ…バレてたのか」

「バレバレです」

「つーか、夏希も猫かぶってるじゃん」

「被ってませんよ。普通です」

「じゃあ、なんで俺だけ茅ヶ崎さんなワケ?」

「流石に、いきなり目上の男性を下の名前で呼べる程図々しくは無いですよ!」

「ふーん、そっか。そういうものなんだ。まぁ、とりあえず座って」

名前で呼んで欲しかったのだろうか?よくわからないが、至さんは自分の隣をポンポンと叩いた。ふわふわと髪を遊ばれ抱きしめられる。

うん!?え、ちょっと待って意味がわからない。

「ち、茅ヶ崎さん!?」

「ナニ?」

「何じゃないですよ!何やってるんですか!?」

「抱きしめてる、充電中」

「はい?」

「だって、もう偽る必要性も無いわけでさ、存分に甘えられるわけじゃん?ってことで、はい」

大人しくじっと抱きしめられたままでいれば、納得したのか離れてスっと目の前にスマホを差し出されてよく見れば、ガチャのページだ…いつも、万里に引いてと頼まれるやつだ。

「まぁ、これ引いてみてよ」

「SSR当てたらケーキ食べたいです」

「あ、知ってるんだ。当てたらね、これ確率クソだって噂あるから今回の限定SSR当ててくれれば買い物に車出すし、プラスケーキも奢ってあげる」

「え?ホントですか?私、友達に神の手って崇められてるんですけど、本当にいいんですか?」

「うん、いいよ」

至さんは心底信じてないようでくすくすと笑いながらいいよと言った。万里には神の手と崇められている私は殆ど無課金の万里をランカーまで上げた逸材だ。

無理矢理万里にやらされている私のアカウントでは発揮されないようでちょっと悔しいが毎度毎度褒められて崇められるのに悪い気はしない。

「うわ…マジか、マジで神の手じゃん」

SSRとかかれたものが3枚も出ていた。よし、これでケーキ3つも食べれる。え?もちろんSSR出した分だけケーキ食べてもいいでしょう?

至さんがふらふらと立ち上がって鞄をゴソゴソと弄る仕事だろうか?うーんでも今の感じだと仕事じゃないかなぁ…とぼーっとしていると目の前に見覚えのある綺麗な箱が差し出される。

「今日得意先から貰ったマカロン食べる?」

「こ、これ、本当にいいんですか?」

「もちろん、好きなだけ食べな」

「も、もらえませんよ!こんな高価なもの!てか、ちゃんと至さんが食べてください!気持ちのこもったものなんでしょう?」

「めっちゃ欲しそうだけど…ワロタ。まぁ、これ男からなんだけど?」

「もらいます。返せって言っても返さないですよ?」

「うん、好きなだけどうぞ」

1日20個限定のマカロン詰め合わせBOXを受けとってしまった…これ本当に並んでも買えなかった幻のマカロンなのだ。私の頭を優しく撫でてさっきまでの不機嫌はどこへやら超ご機嫌だ。まるで万里みたいだ、この2人似てる気がする。

「綴は?」

「元気そうでしたよ」

「そっか」

「心配なら行けばよかったじゃないですか」

「本当にしんどかったら、あの大人数で押しかけるのも可哀想だろう?」

「そうですけど…私は部屋に戻ります。至さんも明日から読み合わせ始まるんですからちゃんと寝てくださいよ」

「わかったよ、台本ありがとう夏希敬語はいらないから、これからは至って呼ぶように、あ、お兄ちゃんでもいいな」

「はぁ…敬語いらないって言われても困るんですけど…しかもお兄ちゃんって…」

「俺の可愛いワガママ聞いてよ」

「お兄ちゃん、おやすみなさい」

「……おやすみ」

まさか、至があんなにゲーマーであることを隠してたこと自体にびっくりした。てっきり隠していないと思っていたから。

まぁ、でも壁を作られるよりかは、ああやって素でいてくれる至の方が好きだ。だって万里にそっくりだし正直ギャップがいいと思う、本当にモテそうだなぁと思って自室に戻った。

険悪


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