初恋の埋め火
丞さんと別れて会場の戸締りも確認する。身内も招待したのでロビーは賑やかである。楽しんでもらえて何よりで十座の弟くんや椋は楽しそうに話しているのを見て安心する。
喧嘩してたわけじゃなさそうだが少し気にしていた…どうやら仲直りしたみたいで安心。
「お疲れ様~皆すっごくかっこよかった!!お客さんも凄いねって言ってたよ!!」
「夏希チャン!!お疲れ様ッスよ!」
控え室の、扉が開いて春組がやってきていっそう賑やかになる。
「おつかれダヨ!」
「おつ~はい。万里差し入れ」
「何スっか、それ……スマホ?」
「今から潜りに行くから、さくっと一戦付き合え」
「公演終わって即とか…」
にこりと営業スマイルで微笑む至に万里は霹靂とした表情ではぁと深いため息を吐いた。どうやら私は免れた様でぼーっと2人を眺める。
「アニキー!!感動しやした!!」
「うるせぇ」
「うっうっ、千秋楽最高だったっす!おれがんどうしぢゃっでうううー!!」
「きたねぇ」
太一は意を決した用で幸ちゃんに向かって本当に申し訳なさそうに頭を下げて謝った…そりゃ謝らない訳には行かないよね。幸は太一の胸に大事に持っていたソーイングセットをぶつける。
「えっ?これ、ソーイングセット?」
「貸してやるから、まつり縫いの練習死ぬ程しとけ。冬の衣装製作でめちゃくちゃこきつかってやる、わかったの?馬鹿犬」
「…わ、わん!」
「よし」
「忠犬だな」
太一は天馬を超える発言をしていて天馬はどこか嬉しそうでより一層控え室は賑やかになる。楽しそうで何よりだ。
皆に一言告げて舞台へと戻って座席に座りセットを見つめる…今日でこのセットともお別れである。
「そろそろ打ち上げ始まるぞ」
「左京さん…ああ、すみません」
「なにぼーっとしてんだ?」
「なんか…今までの公演思い出してしまって…昔みた公演も思い出しました」
「そうだなぁ…」
「ふふ、あの時無理難題を出してくる借金取りだった左京さんが今こうして劇団にいてくれるっていうのが少し不思議です」
「自分で誘ったくせに何言ってんだ」
「それは…そうなんですけど…」
「止まってた俺の時間を無理やり進めたのはお前とアイツだ。その責任はしっかり取ってもらうからな」
「ふふ…怖いなぁ…左京さんには死ぬまで敵わないだろうなぁ」
「はぁ?どうした?」
少し困ったように左京さんは私の頭を優しく撫でる。手馴れてるなぁとおもいつつ結局は子供扱いなのだ。まぁ、左京さんからしたら私なんて子供だろうけど。
「冬もこの調子でうまくいけば、年明けから再演の地方巡業で…借金返済も夢じゃないですね!楽しみです!」
「そうだな…いづみの力になってやってくれ」
「もちろんです!」
また、優しく笑って私の頭を優しくなでた左京さんに、くすぐったさを感じて恥ずかしくなった。
「おい、夏希っ…左京さんもここにいたんすか、打ち上げ始まるっすよ」
「あぁ、万里ごめん!すぐ行く!ちょっと小道具直してから行くから先始めてて!左京さんも先に戻っててください」
「手伝うわ」
「……俺は先に戻る遅くならねぇようにな」
劇場から出ていく左京さんを見送って万里と小道具を治す。きちんと、しまっておかなければ何が起きるかわからない。壊れたりしてしまったら大変だ。
「オッサンと何話してたんだ」
「え?あー冬組の事とか」
「ふーん」
「なに、珍しいね万里がヤキモチ」
「はぁ?ちげぇわ」
「はいはい」
相手にせず片付けていたらムッとした表情で髪を弄る万里の癖。
「なぁ……お前が初恋だって言ってた男…ここに所属してたんだろ?今日の俺とどうだった?」
「え?そりゃあの時の王子様でしょ。だけど、万里は違ったかっこよさで今までみた万里の中で1番かっこよくてキラキラしてたよ」
「……っ…そこまで言えとは言ってねぇだろ」
「照れた?でも本当にかっこよかったよ」
「これからも1番近くで見せてやっからぜってぇその王子越えさせてみっからな」
「そう、だね」
タイムリミットはどんどん近づいている。
そう思えば思うほど焦燥感に駆られたがどうしようも無いので押し殺す。
ねぇ、万里…万里は世界で1番かっこよくて自慢の親友だよ。