千秋楽

「夏希チャン トイレ行ってくるッス!」

少し胸騒ぎしたので心配になってしまって、太一を見守る…流石にトイレまで着いてくのはやり過ぎかもしれないけど、もしかしたら…万が一の事がある。

「太一」

「GOD座主宰神木坂レニさん…」

「あ、夏希 チャンこんなことろでなにやってんの?ってはぁ!?スタッフだったの!?」

「晴翔静かにしなさい。やあ…キミの監督から招待状を貰ってね千秋楽頑張って…楽しみにしているよ」

「流石…GOD座主宰の神木坂さん…有名劇団なだけあってやはり演技がお上手ですね…ですが、MANKAIカンパニー及び所属劇団員に対して威力業務妨害罪…など数々の、嫌がらせ多数…見過ごせません」

「私がやったという証拠でもあるのかね?」

そう言った瞬間目の前には深緑のコートが目に入り、万里が飛んできてくれたのだと理解した。守ってくれるというのはどうやら本当だったみたいだ。太一の傍には十座がいて太一を守る。

「夏希っ!!太一っ!!……なんもされてねぇか?」

「くせぇ芝居はやめろ。てめぇがこいつにやらせたことはもう知ってる」

「…で。太一はこれからも俺達の仲間としてやっていくとになったから。今までどうもお世話になりました」

「おれは…もう…戻りません!」

「二度とこいつに近付くな」

「せいぜい行儀よく座って見てろよ」

「ふんっ…行くぞ、丞、晴翔」

「待ってください…私はGOD座の演技がとても、とても大好きでした。堂々としてて華やかでとても素敵でした…だけど、舞台を壊そうとするのは許せません。もう二度としないでください…」

そう言って万里達を追いかける…後ろからは丞さんが怒るような声が聞こえたような気がしたけれど、振り返らずそのまま控え室へと向かった。

「夏希チャン、万チャン、十座サンありがとう」

「太一…まだ泣くなよ。メイク崩れんぞ」

「太一…太一の今まで最高の演技が見れるの楽しみにしてるね…がんばって」

「もちろんッス!」

そして膜が上がったのを通路の1番後ろで見守る。この場所はみんな事がよく見える特等席だったりもするのだ。

最初からは考えれないくらい、2人の掛け合いは息があっていて暴走しそうな2人を左京さんがうまくコントロールする。
実際実生活でもそうだけどあの二人の場合は左京さんがうまく手網を握ってくれているおかげでなんとかなってる…まぁ実際物理的なのだが…そんな2人のリアルの関係性も相まってルチアーノとランスキーの人間味が増す。

「でかした、ランスキー!しんがりは任せな!てめえのケツは守ってやるよ!」

「腕は確かなんだがな、その口の悪さはどうにかしろ」

この2人のアクションシーンはとっても好きだ。2人とも運動神経…いや喧嘩神経?喧嘩神経ってなんだ…まぁともかくとってもキレがあってカッコイイ。

「兄ちゃんの友達?僕、ベンジャミン…」

少し心配だったランスキーの弟…太一のシーンは心配なんかしなくても今までで最高の演技だ…ただ、無邪気なだけだったベンジャミンに陰が生まれた。幼さと暗さが同居したような…役に深みが出た。

「お前は単純だからな、上っ面だけ見てわかった気になるなよ」

左京さんのアドリブまるで、芝居を簡単に分かっていた気になっていた最初の頃の万里に向けたみたいな言葉だ。同時にこの後のランスキーの裏切りへの伏線でもある。

「なんすか…ったく。わあってますよ」

暗転し、臣のシーン…普段の臣を知っているだけにこのデューイは凄くなんというか、いい感じでハマっているのでなかなか凄味がある。

お客さんからの歓声と拍手が劇場全体を揺らして終わったとほっとする。流石千秋楽…みんなの熱気がこっちまで伝わってきてどきどきした。間違いなく、千秋楽が今までで1番最高の出来だった。

「あざっした!」

「あざっした!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうッスー!」

「ありがとうございました」

5人がカーテンコールで舞台に出てきてお礼を伝える。そんな5人をカメラに収めて劇場を出る。

「本当にすまなかった……知らなかったとはいえ、許されない事をしていた思う」

「え、ちょっ、ちょっと丞さん顔を上げてください!丞さんは何もしなかったんですよね…」

「知らなかったけどファンにとても済まない事をしたと思ってる…せっかく応援してくれていたのに申し訳なかった」

「……舞台を作る人間が舞台を壊すのは…本当にあってはならないことだと思います。だけど、それはなにか理由があっての事じゃないかなって思ってます…丞さんにはどんな理由があれそうはなって欲しくないと思ってます」

「ああ、俺はもうやっていけないって判断して辞めさてもらうつもりだ。本当にすまなかった、また見に来て貰えると嬉しい」

「もちろんです。お気をつけて…」

そう言って深々と頭を下げた丞さんを見送ってお客様を見送った。

千秋楽

- ナノ -