満開前夜
万里のポートレイトにのめり込むようにハマっていく。不覚にもカッコイイ、素敵だと素直にそう思った自分に驚いた。
前回の万里のポートレイトとは全く違う…万里は人より人一倍器用だ…そのせいで周りから疎まれたり、妬まれたり、そして自分自身それに霹靂としていた過去。
十座に初めて敗北した事での変化…十座くんの芝居への気持ちに触発されるようにどんどん芝居へとのめり込んでいく。
「俺は生まれて初めて、マジになれるモンに出会えたんだ」
万里の気持ちが真っ直ぐ伝わってきて嬉しくなるのと同時にちょっぴり悔しい気持ちになる。
「舞台の上でも、絶対お前をぶちのめす……以上。俺のポートレイト終わり」
「万里くん、すごくよくなったよ!」
「うん、十座のも良かったけど、万里のも並ぶな」
「太一のもすっこぐ良かったよ」
「お前の気持ちもよくわかった。辛かったな」
「わかってやれなくて悪かった」
「めてぇのした事は許されることじゃねぇ…でも、てめぇの事は許す」
「どっちだよ」
「ふふ、罪を憎んで人を憎まず…太一の事は許すってことでしょう?」
そう言って笑うと臣が優しく私の頭を撫でながらそうだなぁと微笑む。
「俺、やっぱり、みんなと芝居がしたいよぉっ」
「太一くん…」
そう言って泣きじゃくる太一の背中を優しくさ擦りながら抱きしめるとまた臣が私と太一の頭を優しく撫でる。
「お前は、どこの七尾太一なんだよ」
「ぇ?」
「GOD座の七尾太一なのか?それが、今の本当のお前なのか?」
「俺は…でも、そんな今更、むしのいいことなんて」
「いいから言ってみろ」
「お前が本当の居場所だって思う場所を言えばいい」
「大丈夫だよ太一くん」
「太一…」
「俺はっ…MANKAIカンパニーの七尾太一ッス!」
「…上出来」
皆が優しく笑って優しい雰囲気に包まれる。秋組はまた絆で結ばれる。
「お前は、俺たちが絶対守る…GOD座とかいうゲス野郎どもには渡さねぇ」
「あぁ…舞台をぶっ壊すような奴らのところなんて、戻る必要ねぇ」
「演劇やる人間の風上にも置けねぇ」
「太一はここにいていいんだ」
「太一がいないと、寂しいよ…だから私は凄く凄く…嬉しいよ」
「みんなっ…」
「お前ら、GOD座が何してこようが、絶対明日の舞台成功させっぞ!」
きっと、今のみんななら何があっても大丈夫だ。どんな妨害をされたって、絶対に負けないし。邪魔なんてさせない。
スタッフである私がみんなをきちんと絶対守らないと…スタッフ失格になってしまうのだ。皆には早急に寝てもらって皆が寝静まったリビングで事務仕事やフライヤーを片付ける。
秋組公演が終われば、次は冬組公演…先を見据えて進めていかないと終わらなくなってしまう。
「……まだ起きてんのか」
「ん…あ、なんだ万里か」
「ちゃんと寝ろよ。お前最近寝不足だろ?」
「うーん、うん。これ終わったら」
いつの間に用意してくれていたのか気付かなかった…肩にはブランケットがかかっていて、暖かいホットココアが目の前に出される。万里は少し笑って私を見つめた。
「…夏希…ありがとな」
「え?」
「お前がいなきゃここまで来れなかった…お前がずっと俺の傍で見捨てず、そばにいてくれたから…」
「私の方こそありがとう。万里は私の自慢の親友だよ」
「ははっ、俺もだわ」
万里はあの苦いブラックコーヒーをのんでいるのかとじーっと見つめていれば、私の髪の毛でふわふわと遊び出した。
「万里…もう、女遊びしちゃだめだよ?あ…あと喧嘩も、あとタバコもギャンブルも…あとそれに」
「くっ…ははっ…もうしねぇよ。したら夏希 泣くだろ?」
「当たり前じゃない!どれだけ心配したと思ってんのよ!」
「もう絶対泣かせねぇし、ぜってぇ守ってやるから」
真っ直ぐ見つめて優しく笑う万里に、少し胸が苦しくなって体温が上がった気がした。
「約束、だからね」
「ああ」