一生償えない罪
ずっとずっと、みんなに好かれたかった。
愛されたかった。
小学校の時からクラスでも影の薄い存在だった。
風邪で休んでも気づかれないくらい。
勉強もスポーツもだめで、面白いことができるわけでもない俺には、これっぽっちも目立てる要素がなかった。
でもある時、クラスでウルトラヨーヨーが流行った俺と同じように大人しくて冴えないクラスメイトがヨーヨーの大技を披露して人気者になったのを見て、俺も必死に練習を始めた。
何日も朝から晩まで練習して、なんとか大技ができるようになって、クラスで披露した時にはもう流行りは終わってた。
そんな風に要領の悪い俺が、たった一度だけ目立てたのがテレビ出演で、親戚の紹介で子役のエキストラをやって、ドラマに一瞬チラッと映った事があった。
それを見ていたクラスメイトが、"七尾、テレビ映ってすげーな"ってほめてくれて、ほかのクラスメイトも集まってきた。
それで人生で唯一、俺が目立てた瞬間だ。
自分にはきっとこれなんだと思った…両親に頼み込んで子役のアカデミーに入って、舞台にドラマにオーディションを受け続けたけど、回ってくるのはエキストラばかり。
どんなに頑張っても俺は影の薄い通行人のまま、俺には徹底的に華がないことを痛感した。
そんなとき、たまたまエキストラで出演したドラマの主役が皇天馬だった…同い年の天馬を見て絶望した…自分は絶対、天性の魅力を持ったあっち側の人間にはなれない。
髪を染めて、服装を変えて、努力したって、絶対あっち側にはいけない。
そんな風に思いながらも諦めきれなくて、端役を務めるアンサンブルキャストとして、なんとかGOD座に入団できた…舞台の真ん中で堂々と演技をする丞サンや晴翔クンを見つめながら、端っこの引き立て役になる。
決して中心にはなれないその他大勢、小学生の時と変わらない。自分はどんなに頑張ってもここまでなのかもしれない、そんな風に思っていた時主宰のレニさんに呼び出された。
"MANKAIカンパニーという劇団に、新人団員として潜り込め"
"え?それってスパイってことっすか?"
"飲み込みが早いな。お前には、あの劇団の舞台をめちゃくちゃにしてもらう"
もちろん、何処の劇団の舞台だろうがそんなことはしたくなかった…いつの間にか大好きなっていたお芝居を、汚すことなんてしたくなかった。
"無事に役目を終えたら、次回公演のメインキャストにお前を入れる"
悪魔の囁きだった…舞台の中心に立てる。二、三個のセリフじゃない、もっとたくさんのセリフが言える。もっとたくさんの芝居ができる…そんな欲望に突き動かされる様に俺は、レニさんの言葉に頷いていた。
そうして入団したMANKAIカンパニーには、俺のコンプレックスといってもいいくらいの皇天馬がいて驚いた。
何でも器用に万チャンにもひそかに内心嫉妬して、自分より不器用な十座サンの存在にほっとして優越感を感じていた。でも、同時に十座サンの誰より強く真っ直ぐな芝居への気持ちに触れて、罪悪感で押しつぶされそうになった。
芝居がやりたいって気持ちは同じでも、役を貰うために卑怯な真似をしている俺と十座サンとじゃ雲泥の差だ。
一緒に稽古していくうちに、秋組の芝居もチームメイトも、春組や夏組の団員たちや監督先生、夏希 チャンたちの事も大好きになった。
同時にレニさんに言われるままに脅迫状を送ったり、衣装や小道具に細工する事が辛くて仕方がなかった。秋組の皆の絆が深まっていけばいくほど、みんなを遠くに感じた。
俺は、ここに入れない…入っちゃいけない。
舞台を汚した俺には、舞台を立つ資格はない。
俺は、何をどうやっても一生償えない罪を犯したんだ…
皆は俺を真っ直ぐに見つめて少し微笑んでくれた事に涙が出そうになったが、堪えて臣クンの隣に座る。万チャンが立ち上がってさっきまで俺が立っていた場所に立ち上がる。
「うっし…これで全員か。じゃあ、最後は俺な」