ロミオとジュリアス

フラフラで倒れそうな綴を支えて稽古場に入ればみんな真剣に台本を読んでいるようだった。題名はロミオとジュリアス…新生春組は元々の春組の雰囲気に合わせた舞台をやるようで、いづみさんは黙ったまま脚本を見つめている。

「監督、脚本…脚本はどうすか?」

「これ…面白い!ばっちり!来月の公演はこの脚本でいこう!」

「あっ…あっ!しゃぁぁぁぁぁ」

「んぐっ!」

横にいた私の視界は真っ暗になる、どうやら綴に抱きしめられているようだ。うん、もうちょっと優しく抱きしめて…流石の私もびっくりするよ?てか、骨折れる、首折れる痛い…。

「はぁ!?アンタ何やってんの?マジで殺す」

「真澄くん!落ち着いてっ!」

「落ち着けるわけないだろ!夏希から離れろ」

「まぁ、まぁ落ち着いてっ」

真澄が怒って私達を引き剥がし、ぎゃあぎゃあうるさい説教を軽くあしらう。台本を私が貰ってしまっていいのかわからないが、いづみさんから受け取って読ませてもらう…ジュリエットが男になっているだけじゃなくて、恋愛ものの悲劇が友情に変わっていて、それだけじゃなく読みやすいし、スっと入ってくるし面白い。

「それで、配役なんですけど、一応当て書きにしてきたっス!主役ロミオが咲也のつもりで!」

「え!?オレですか!?」

「最初の団員だし、1番春組っぽい感じがするから」

明るく元気で王道ってイメージがあるから…か。確かに咲也は優しくて明るくて王子様とかそういうのが凄く似合いそうな気がする…

「そっ、そんな俺は舞台に立てれば背景でもいいんですっ!」

「背景って…咲也しかこの役できないと思うけどなぁ…当て書きなわけだし…」

「じゃあ…座長兼春組のリーダーは咲也君に決まり」

にこりと微笑んでいづみさんが言えば咲也はオロオロしながら困っている…だけど、決心したようで咲也の肩に力が入ったように見えた。

「頑張ります!ありがとう…夏希」

「うん、楽しみにしてるね」

「んで、ジュリアスが真澄ロミオの友達マキューシオが俺。ジュリアスの兄貴分ティボルトが至さん。ロレンス神父がシトロンさん」

「oh!セリフ少ないよ~?」

少ししょんぼりしたシトロンがそう呟いた。そりゃそうだ、シトロンの語学力では、今はこれが限界だろう。このセリフも言えるのだろうか…だけど、練習すればきっと言えるようになるはずでもっともっとたくさんの役をこなせるはず。

「わざとッス」

みんなイメージもピッタリで役にハマっている。
いづみさんはすごく嬉しそうで、私自身も凄く嬉しい、脚本が出来上がってこうやって舞台が出来上がっていくんだと初めて知って嬉しいのと同時にワクワクする。

「俺も、脚本くらい…」

「真澄に脚本は無理だよ」

「真澄君は役者として頑張って…明日からはいよいよ読み合わせを始めるから、みんな頑張ろうね」

「「「「はい!」」」」

各々解散となった所でいづみさんから台本を手渡された。ん……?台本なら貰っているんだけど…?

「これ、至さんの台本なんだけど、頼めないかな?支配人といろいろ相談したくって…」

「あ、はい。わかりました!」

そう、茅ヶ崎さんの分の台本を預かった、さっき飲み物を持っていく約束をしていたし、ついでにだから全然いいのだが…現在茅ヶ崎さんの部屋の前である。

苦手では無いが、なんかこう壁を感じるから…まぁ、つまり苦手なわけで…あまり2人になることもないし、謎に包まれている茅ヶ崎さんの事はよくわからない。見た目や雰囲気だけでいうと凄く爽やかなんだけれど…実際のところよく分からない人なんだよなぁ。

「茅ヶ崎さん、いますか?」

そう呼びかけてノックをしても返事がない、本当に体調が悪いのだろうが?倒れてたり…?いや、今朝もいつも通り携帯を弄っていたし、しんどそうには見えなかったし…よし…手に力を込めてドアノブをゆっくりと回した。

「台本持ってきたんですけど…」

部屋に足を踏み入ればそれは、まぁお世辞にも綺麗とは言えない…汚部屋とも言えないまぁ所謂汚い部屋に早変わりしていた。チカチカとモニターのライトが茅ヶ崎さんの顔を照らす。

「入るな!あーマジふざけんなよ、今ので3キルは逃した」

「えぇ…」

「クッソ…殺すぞ雑魚!」

「茅ヶ崎さん…?」

足音をたててゆらゆらとこっちに向かってくる、茅ヶ崎さんは目が虚ろだ。ゲーマーなのだろう。たしか、あのゲーム万里もやっていたような気がするし…と思っていたのも束の間茅ヶ崎さんに壁ドンをされる。

「勝手に入ってんじゃねぇーよ、今取り込み中なの見てわかんない?」

「取り込み中…ってか…ゲームですけど…てか、どちら様ですか?」

「茅ヶ崎至ですけど、何か?」

こっわ!!!!
どこぞのネオヤンキーですか!?

ゲーマーってみんな怖いのかな。嫌だな…もう。

ロミオとジュリアス

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