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「いけ、」

シルバー様が投げたボールは、綺麗な弧を描きながらその口を開いた。パアッと赤い閃光が走り、中から出てきたのは、

「グァオ!」
「オーダイル、ですか。」

あのオーダイルは、以前シルバー様に会ったときに一緒に居たワニノコだろうか。最終段階まで進化し、逞しい体つきになったオーダイルの、鋭い双目が私を射すくめた。

「どうしたリゼ、ポケモン出せよ。」
「……シルバー様、年上には敬意を持って話すものです、と教えたはずですが。」

そんな数年前の事など、覚えていないのは当たり前だけれども、何だか自分を見下されている気がして口を挿まずには、いられなかった。けれどシルバー様は、そんな私の説教など聞きたくないと言った風に首を振った。そして、イライラしたように口を開いた。

「早くしろよ。」
「す、すみません」

やはり私の教え方が悪かったのか……まず私が教育係になったのは間違いだったのかもしれない。
ふぅと、小さくため息を吐いたリゼは、持っていたボールを真上に投げた。

「キノガッサ!」
「キノ!」

相性の上ではこちらが有利だ。幾らシルバー様といえど、手加減してはいけない。それがシルバー様から仕掛けてきたバトルなら、尚更のこと。

「キノガッサ、マッハパンチ!」

ダン!と地面が抉れる程強く蹴り、その反動で一気にオーダイルへと距離を詰めたキノガッサは、右手を突き出した。まずは先手を、という私の考えはどうやらシルバー様に読まれていたらしく、にやりと口角を上げた彼は、オーダイルに命令する。

「引きつけて、こおりのキバ!」

寸分のところでひらりと避けたオーダイルは、そのまま突き出された右手に噛み付いた。

「ノッ!」
「グルル…」

パキパキと、キノガッサの右腕が凍っていく。キノガッサはくさ・かくとうタイプ。効果はばつぐんだ。悲痛なキノガッサの鳴声を聞いたリゼは、慌てて次の指示を出した。

「空いた左腕で、もう一度 マッハパンチ!」
「……!」

身体を大きく捻ったキノガッサは力を込めて、オーダイルの横顔に高速パンチを繰り出す。衝撃で口を少し開けた隙に、鋭いキバから右腕を解放させた。

「キノッ!」
「グルルルル……!!」

よく鍛錬されたのだろう。キノガッサのマッハパンチを喰らっても、オーダイルには余裕が伺える。鋭い歯が、ぎらりと光った。

「キノガッサ、タネばくだん!」

キノガッサが繰り出した タネばくだんは、オーダイルに炸裂した。パアンと派手な音と一緒に、オーダイルの体がふっとんだ。やった、成功だ。そう思って口の端を上げるのと同時に、シルバー様のキツイ一言が飛んだ。

「まだ終わらねぇぞ!」

ハッとした瞬間、オーダイルは私のキノガッサが最初にして見せたように、地面を蹴って体勢を立て直すし、同時にキノガッサとの距離を一瞬にして埋めてみせる。

「そこだ!渾身の力でこおりのキバ!!」
「グアアァゥッ!!」

キノガッサが倒れた。まさか、シルバー様が。私に?



油断する暇もなしに
「俺を、何時までも子ども扱いするなよ」



「次のポケモン出せよ。俺のオーダイルはまだ戦える。」

1対1の勝負かと思っていた私は、シルバー様を見つめた。シルバー様の意図が分からなかった。目が合った彼はまた、イライラした風に同じ言葉を繰り返した。

「……じゃあ、この子がラストです。」

ポンと軽快な音を立て、モンスターボールの中から飛び出してくるポケモンを、私もシルバー様も、息を呑んで見つめた。

「コンッ!」



10/10/05
15/03/16 修正

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