ネタメモ | ナノ

2021/01/28 Thu

※祓ったれ本舗(最強コンビがお笑い芸人をやっている世界線)パロ
※自己設定が含まれますのでご注意ください


・主人公=夏油家のお隣さんで夏油の幼馴染。夏油のことが大好き。
・夏油=全寮制の高校に通っている。お笑い芸人を目指すことにした。
・五条=夏油と同じ全寮制の高校に通っている。夏油とお笑い芸人になることにした。


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 ──サマーバケーション。学生のバカンス、あらゆる学生の心の拠り所、そしてあらゆる保護者の敵こと夏休み。

 高校に上がってはじめての夏休みの到来を、俺は指折り数えて待っていた。それはクラスメイトと行く海やプール、ちょっと気になるあの子と行く夏祭り……が楽しみだったわけではなく、全寮制の学校へ進学してしまった幼馴染の帰りが待ち遠しかったからだ。

 今日はやっとその幼馴染が帰ってくる日である。
 俺は夏休みだと言うのにわざわざ早起きして、なんなら昨夜から眠れないくらいで、この暑い中母さんとケーキを焼きつつ、おろしたての素敵なシャツまで着て待っていたって言うのに。
 ……それなのに。

「──傑の浮気者っっ!!!!!」

 見ない間に少し背の伸びた傑を前にして、俺は思わず叫んでしまった。

「え……っと……」
「うるっさ、何コイツ」

 大好きな幼馴染が久しぶりに帰ってきたと思ったら、そりゃあもう見たことがないくらいキラキラしたイケメンを連れてきた挙句、「私、お笑い芸人を目指そうと思うんだ。こっちが相方の五条悟。高校のクラスメイトだよ」なんて言うもんだから、俺はとうとう辛抱たまらずに叫んでしまったのだ。浮気者、と。
 いや、断じて傑と俺は恋人同士ではないんだけど、心情的な問題で。

「傑……え、どうしたの? 暑すぎておかしくなっちゃった? それとも高校で友達できなくて、寂しさのあまり血迷った?」
「失礼だな君は。違うよ、私は大真面目にお笑いの道を目指したいんだ。もちろん高校はちゃんと卒業するつもりだけど……」
「違う、違う。そうじゃない。傑が選んだ道なら、俺は何でも応援する。お笑い芸人だって、俳優だって、たとえ怪しい宗教団体の教祖になりたいって言ったって俺はオマエを応援する。だけど"そうじゃない"んだ」
「じゃあ何だって言うんだい?」

 涼しい形をした眉を顰めた傑に、俺はビシッと指を突きつけた。

「なんで俺が相方じゃないんだよ!!!!」
「……え」
「は?」

 叫ぶと、傑はぽかんとした顔をした。ついでに隣のキラキラ男も思いっきり顔を歪める。

「つか傑、コイツ何?」
「……私の幼馴染」
「だいぶキちゃってる感じだけど」
「これでも普段は良い奴なんだよ」
「おいそこ! コソコソすんな!!」

 何でだ。俺の方がずっと付き合いが長いだろ。傑のことは、傑の親の次に理解しているつもりだ。
 なのにこんな、いきなり現れた知らないキラキラ男が"相方"だなんて。なんで、なんでなんだ傑。

「相方なら俺にしてくれよ、俺がいるだろ。生まれたときから一緒なんだ、息だってピッタリ合う」
「……残念ながらそれは無理だよ」
「どうして!?」
「だって君、笑いのセンスが壊滅的にないだろ」
「……!」

 スッパリと切り捨てられたショックで口を開いたまま固まってしまうと、キラキラ男が腹を抱えて「ギャハハ」と笑った。

「うるせぇぞキラキラ!」
「え、何? キラキラって俺のこと? 絶妙に悪口なのかわかんねぇな」
「お前しかいないだろ……何なんだよお前……ナニモンだよ……傑の何なんだよ……」
「だから言ってんだろ。傑のクラスメイトで、相方になる予定の男だって。逆にオマエは何なんだよ」
「俺は傑と生まれたときから一緒の幼馴染で、死ぬときも一緒の予定の男だよ」
「うわ重っ……大丈夫かコイツ」

 キラキラがオエーという顔をするが、そんなのは知ったことか。俺たちの間で、若干困った顔をしている傑に取り縋る。

「傑、今からでも遅くないよ、俺にしてよ……! 俺頑張るから、すごく頑張るから」
「うーん……とは言ってもね……」
「傑、こういうのはハッキリ言った方がいいぜ。『お前とじゃぜってぇ無理、テッペン取れない』ってな」

 キラキラが俺を指さして、続ける。

「いいか。俺と傑は最強なんだよ。俺らが組んだらできないことなんて何もねぇの。なぁ、傑」
「……」

 傑はただ困ったような顔をして笑っていたけど、その表情はキラキラの言葉を肯定していた。きっと俺がいたから、気を遣って「そうだね」とは言わなかっただけで、多分傑もこのキラキラと二人で『最強』だと思っているんだ。
 俺は膝を床についた。なんかもう、悲しいとか寂しいとかを通り越して、負けたって気がした。目の前にある傑の膝にひしと取り付いて、でもでもと首を振る。

「でもこんな……こんな胡散くさい男……!」
「だから幼馴染くん、諦めな。オマエじゃ無理だよ。オマエじゃ傑とはコンビを組めねぇ」
「……」
「……その代わり、オマエを俺らのファン第一号にしてやっから」

 キラキラ男がちょっと優しい声を出した。優しいと言うより、小さい子供を懐柔するような声。一応俺とは同い年のはずなのに。背がでかいからって、ムカつくな。

「……オマエのファンにはならないけど、傑のファン第一号にはなる」
「ハハ、だってさ悟」
「ハーッ、可愛くねぇなあ〜オマエ!」

 せっかくこの俺が優しくしてやってんのに、と後頭部をかく男の方を見上げて、俺は言った。
 
「……わかった。わかったよ、オマエらコンビのことを応援する。もう『俺を相方にしろ』なんてワガママは言わない。あんまり言って、傑に嫌われてもやだし……」

 俺は立ち上がった。傑が俺の肩をぽんぽんと叩く。偉いね、と言うように。

「……だからその代わりキラキラ、これだけは絶対守って」
「あ?」
「──傑のこと、見捨てるなよ」
「見捨てる? ねぇよ」
「見捨てるっていうか……オマエ絶対無神経なタイプだろ。傑は図太そうに見えて意外と繊細なんだから、丁重に扱え。コイツちょっと一人で背負い込むところあるから、絶対に傑に無理させるな」
「……わかったよ」
「それから、正直その見た目なら女性ファンがきっとたくさんつくだろうけど、絶対にプライベートを流出させるなよ。オマエみたいな奴はすぐ炎上しそうだし、SNSの使い方も雑そうだから怖い。オマエが不祥事を起こしたら傑もとばっちり食らうんだからな。有名になる気があるんなら今から身綺麗にしとけよ、色々と。あと、将来的にテレビに出るようになったとしても、傑に妙なドッキリを仕掛けるようなのとか、傑が不快になるような仕事は絶対受けるな。いいな。それから……」
「いや、"これだけ"が多いわ」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ありがとう」

 傑はふっと笑った。俺は傑の目を見て、それから五条の目を見て言う。

「あと最後に、」
「まだあんのかよ」
「──そこまで言ったからには、絶対テッペン取れよ。……"最強"なんだろ?」
「……なんだ、んなことか。当たり前だろ。俺らを誰だと思ってんだよ。なぁ傑」
「あぁ、そうだな」

 不敵に笑うふたりに、俺もやっと笑みを返してから、ふと思ったことを訊ねた。

「……そういや、コンビ名聞いてなかったけど、決まってるの?」
「うん、決まってるよ。もうこれしかないって感じで、一瞬で決まったんだ」
「え、なになに? 教えて教えて」
「私たちのコンビ名は……」

 ニヤリと笑った傑の声に、五条の声が重なった。

「──"祓ったれ本舗"!」








「──あの、マネージャーの伊地知さんですよね? 祓ったれ本舗の二人の楽屋ってこっちで合ってますか? 次のバラエティで共演するので、今日のうちにご挨拶しておきたくて」
「え? あぁ……えぇ、こっちです」

 一昨年の『じゅじゅつプロダクション・新人発掘オーディション』で見事プロダクション所属となった『祓ったれ本舗』は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの若手お笑いコンビだ。
 バラエティ番組への出演だけでなく、CMや動画サイトのプロモーション広告、果ては連続ドラマまで。あらゆるメディアに触れていれば祓ったれ本舗を見ない日はない、というほどの人気ぶりなのだ。
 そんな二人のマネージャー、伊地知はテレビ局の廊下で声をかけてきた青年を連れて、次のスケジュールを確認しながら楽屋へ顔を出す。

「お、伊地知ー」
「お疲れ様」
「お疲れ様です五条さん、夏油さん。……あの、お二人にご挨拶したいという方がいらしていて……」
「え、俺たちに? 誰……っ!?」

 そして伊地知の後ろから顔を出した男の顔を見て──まず五条が絶句した。
 そんな五条に遅れて、夏油が普段の三倍ほど目を見開いてピシリと固まる。

「えっオマエ……なんでここにいんだよ!? テレビ局不法侵入か!!?」
「違うよ、違うって! 待って伊地知さんつまみ出さないで! ……やっと二人と共演できることになったから、挨拶しておきたかったんだ!」
「は、え……共演……? おい傑、」
「……いや、私は何も聞いてない」

 そこに立っていたのは夏油過激派……もとい夏油の幼馴染だったのである。五条の視線に、夏油も困ったように首を振る。

「だって何も言ってないから。──実は俺、アイドルになったんだ」

 続けて放たれた言葉に、再び楽屋に激震が走った。

「……ハァァア!? オマエが!? アイドル!?」
「うん。二人がじゅじゅプロのオーディション受けるって言うから、俺も隠れてオーディション受けてたんだけど……いやこれがまぁスベりにスベって、お笑い方面は本当に全然ダメで。でもどうしても傑と同じ業界に行きたかったから、ダメ元でそのとき募集してたアイドルグループの面接を受けてみたんだ。そしたら何と、合格しました。で、ついこの間デビューが決まったの」
「マジか、オマエやるなぁ……」

 ぶい、とピースサインを作る幼馴染を見て、夏油は「何も聞いてない……」と口の中で繰り返す。

「……というわけで、これからよろしくお願いします! 俺ももっとたくさん頑張って、もっとワガママを通せるようになったら、たくさん傑と一緒に仕事できるようにするから!」
「俺とは?」
「オマエはまぁ……うん」
「何だその反応」
「それじゃあ、今日は挨拶に来ただけだから、俺もう行くね。また!」
「おーうまたな。……って、傑?」

 そうして幼馴染は嵐のように去っていった。
 しかしせっかく幼馴染がやってきたというのに、夏油は不思議なほどに神妙な顔をして黙り込んでいる。妙に思った五条が声をかけた。

「おーい、どうした」
「聞いてない……私は何も……」
「傑?」
「あれの行動力を舐めてた……まさかそんな手に出るなんて……」
「おーいって」

 椅子に項垂れている夏油に近づいた五条を、夏油は前髪を振り乱しながら勢いよく見上げた。

「──私は何も聞いてない!」
「うん、だって言ってねぇって言ってたし……どうしたんだよ急に」
「……だってアイドルだぞ! ただの芸能人じゃない、アイドルだ! ファンとの疑似恋愛が売りだろう! そんな、あの子が一般人に消費されるようなこと……ダメだ、許せない。絶対ダメだ」
「許せないって……それがアイツの選んだ道だろうよ。応援してやれって。アイツは俺たちの夢応援してくれただろ」
「……」
「そんなに嫌なら、アイツ入れて三人でトリオ漫才でもしてみるか? 意外にイケるかも」
「……いや、それも絶対にダメだ。アレはやらせれば歌も踊りもそれなりに出来るのかもしれないが、笑いのセンスだけは本当にない」
「ハハ、そう言うと思った」
「笑い事じゃないんだぞ!」
「まぁまぁ落ち着けって。アイツ、オマエのこと追いかけてきたんだろ」
「だからって……!」

 珍しく取り乱す夏油を宥める五条を見ながら、楽屋の隅っこでおろおろしている影がひとつ。

「あ、あの……お二人とも……そろそろお時間なんですが……」



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祓本パロというより芸能パロに近いかもしれません。

主人公は祓本大好きで公言こそしていませんが、出演するライブやイベントは自力でチケットを取って必ず観覧しているのでその界隈の人たちにはうっすらバレています。
ミミナナちゃんとも絡ませたかったけどちょっと難しくて無理でした…。

パロものなので、ネタメモに投げて満足しておきます。

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