ネタメモ | ナノ

2020/07/20 Mon


※ミツバの双子の兄主
※暗い

主人公はミツバの双子の兄。
生計を立てるために早くから奉公に出ていたので、あまり家にはいなかった。たまに帰ってくる兄に道場でのを嬉しそうに話す総悟を見るのが楽しみ。家のことや総悟のことをミツバに任せきりにしてしまって申し訳ないと思っている。



 主人公は総悟たちの出立と入れ替わるように奉公先から武州に戻り、近場で職を見つけて暮らしていた。ミツバをひとりにする訳にはいかないと思ってのことだ。
 「ミツバはおれが護るから、お前は安心して行っておいで」と主人公は総悟を見送る。総悟は本当は一緒に行きたかったけれど、わがままは言えないからぎゅっと口を結んで「はい」とだけ返事をした。
 「総悟を頼みます」と近藤や土方に頭を下げる兄は、とても寂しそうに見えた。本当は兄上も一緒に行きたいんだ、と総悟はそっと思った。

 そんな中、ミツバを亡くした。
 ずっと支え合ってきた片割れの喪失は、浅くない傷を主人公にも遺した。
 ──ミツバの死と総悟の自立。兄弟の為に生きてきた主人公には、ここに来て何も残らなかった。
その喪失感と無力感は、実はミツバの結婚が決まった頃から薄々感じていた。ミツバの治療費だって、総悟の仕送りで十分である。今までは兄弟のためと思って一生懸命働いてきたけれど、別にその必要もない。
剣の心得は多少あるが、神童である弟とは比べるまでもない出来の差。
 惨めだった。土方と総悟がミツバのために奔走する中、何もできない自分がたまらなく嫌だった。世界から自分だけ爪弾きにされたようだった。
 孤独感は容易に心を開ける。


 弟へ文を書く頻度が減った。飲む酒の量は増えた。遅くまで飲み歩く日も増えた。どうせ自分一人の身だ。どうなったって構わない。思ったよりこの孤独感というのは、自分の深くにまで根差しているらしい──。
 主人公がぼうっとする頭でフラフラと歩いていると、あまり治安の良くない裏道に入り込んでしまったようだ。……よくない、はやくもどろう。そう思ったとき、すれ違った男と肩をぶつけてしまった。
「…すみません、」
「痛ってェな兄ちゃん。どこ見て歩いてんだよ」
「すみません…」
「すみませんすみません、ってなァ。それで済んだら警察要らねーんだよ」
 見ると男はひとりではなかった。しかも腰に刀を差している。こんなご時世に帯刀しているのは、幕府の役人か浪士くらいのものだ。そしてこいつらは明らかに後者。
「オラ何とか言えよ!…なんだお前、女みたいな顔しやがって」
 顔を覗きこんできた男は、面白いものを見つけたように言った。
 ざわ、と鳥肌が立つ。ミツバとよく似た黒目がちの大きな瞳、小作りの鼻や口元は、昔から女性的に見られがちだった。
「……お金なら渡します。本当に、勘弁してください」
「変だと思ったんだよな。お前みてえな優男がこんな所にひとりで突っ立って…客でも取るつもりだったんだろ?」
「……っ違う!」
 ギャハハ、と下品な冗談に男らは笑い声を上げる。悔しくて歯噛みしたけれど、こちらはたったひとりで丸腰、相手は帯刀した複数人。どうにか穏便に事を運ぶしかない。
「じゃあ望み通り客になってやるか。オラ、こっち来い!」
「は、離せ……!」
 手首を掴まれてグイと引っ張られる。
こんなとき総悟ならあっという間に相手を一刀両断できるんだろうな、とやはり惨めに思って、主人公は観念して目を瞑った。

 ──ピシャッ。
 顔に生暖かい液体が吹きかかった。あれ、と思って眼を開ける。
 ゆっくりと地面から視線を上げると、女物の着物の裾と、血塗れの刀身が目に入った。
「………ッ!」
 地面に転がる男たち"だったもの"を見て、主人公は思わず息を飲む。
「ほう、声を上げねーか」
 場にそぐわない悠然とした低い声が、いやに耳に染みた。女物の着物とアンバランスな声色は妙に艶っぽい。
「だ、誰……」
「オイオイ、これでも一応お前のこと助けてやったんだぜ」
「……そうか。そうだった……ありがとう、ございます」
 笠を被っているから男の顔はわからない。
 流されるように礼を言うと、男はクッと喉を鳴らすように笑った。
「ありがとう、か」
 と呟いて男はまた面白そうに笑う。
 一刻もはやく逃げ出したいが、それは敵わないだろう。さっきの男どもよりもこの目の前の男の方が数倍危険な香りがする。
 主人公は諦めて、声を発した。
「……おれ、このまま貴方に殺されますよね」
「どうしてそう思う」
「だって目の前で人を斬ったの見ましたし、貴方どう見てもお役人とかそういう感じでもないし……。気まぐれで助けて気まぐれで殺すんでしょう、貴方みたいな人は」

 月が雲から出てきて、傘の影に隠れた男の顔を照らす。片目を包帯で覆っていたが、整った顔立ちだと思った。男は隻眼を細めて言い放つ。
「……諦めきれない、って眼ェしてるな」
「……はい?」
「この地上に居場所がないと思ってる。世界から拒絶されたと思ってる。でも世界を諦めたくねえと思ってる……。絶望してるのに、諦めたくねえんだ。お前は」
 胸中を言い当てた言葉に主人公はハッとする。男はゆったりと構えているが、眼光だけは鋭いままだ。
「……そんな、思想家みたいな顔してましたか、おれは」
 血塗れの頬に触れて不思議そうに言うと、「お前さん見かけより肝座ってるなァ」と男はまた笑った。
「してるな。……そういう奴ってなァ行き着く先はふたつに一つしかねえ。自分が壊れるか、……世界を壊すか、だ」

 主人公はぱち、と瞬きをする。壊す?世界を?
 まさか、とか自分みたいな善良な一市民にそんな願望あるわけ、とか色々な台詞は湧いてきたが、なぜかそれがストンと胃に落ちた。
「──お前、俺の気まぐれに乗るか?」
 男は刀身を薙ぎ払って血液を飛ばす。そうして鞘に収めて、唇の端を引き上げた。
 主人公の心臓がドクリと音を立てる。なぜか期待していた。これは絶望ではなく、期待の高鳴りだった。

「お前は、俺と来い」

 その言葉をかけられた瞬間、途端に腰の力が抜けて、主人公は地面にへたり込んでしまった。
「は、はは…」
 こみ上げてくるのは笑いだった。おかしくなってしまったのかと思った。
 ……なぜならとてつも無く、途方もなく"嬉しかった"からだ。
 ずっと選ばれたかった。誰かに選ばれたかった。自分でも知らないうちに兄弟に嫉妬していた。"人に選ばれる彼ら"に嫉妬していた。
「……もう一度、言ってもらえませんか」
「二度は言わねえ。さっさと決めろ」
 腹はとっくに決まっていた。主人公は血の海にへたり込んだまま、男に向かって手を伸ばす。「引き上げてくれ」と言うように。
 隻眼の男は逡巡してから、グイとその手を引っ張った。力強く。
 主人公はそれだけで満たされた。自分を選んでくれる人間はまだ、世界にいたのだ。それがたとえ、世界を壊す人間だとしても。

「……お前さんよ、俺が誰だかわかって付いてきてんのか」
「とっても悪い人……ですかね」
「違ェねえな」
「あの、なんで俺を助けたんでしょうか」
「道行きの邪魔だったからだ」
「……俺を拾ったのは?」
「たまには良いことしてもバチは当たるめえよ」
「……これって良いことなんですかね」
「良いことだろ。放っといたら死にそうな迷い猫を保護してやったんだ」
 月が綺麗な晩のことだった。保護と誘拐、あるいは眩惑。嘘のように明るい月の下で、そこに大きな差はないようだ。

 同じ晩、月を見上げながらポツリと呟く声がひとつ。
「……最近、あまり兄上と連絡つかないんですよねィ」
「……そうなのか。でも、お忙しい人だからな。便りがないのは良い便りって言うだろう?総悟、あまり心配するな」
「だと良いんですが……」

 妙な胸騒ぎがするのは、月があまりに綺麗で、かぐや姫の迎えでも降りて来そうだからだろうか。
 兄が武州の家にずっと帰っていないと沖田が知るのは、その一月後のことだ。


〜〜〜

どう転んでも全員不幸にしかならないのと書き切れる気がしないので、とりあえず書きたかった設定とシーンの部分(ほぼ箇条書きですが)をチラ裏に投げておきます。

依存体質な主人公が好きなんですね。
無力感に苛まれて自暴自棄になってるところに高杉みたいなカリスマが現れたら、ぺろっと付いて行っちゃう気がします。

たとえば鬼兵隊に置いてもらう中で、万斉に三味線習ったりするような……ほのぼのな方になんとか持ってけないかなあと思いましたが無理でした。
うっかり真選組と、総悟くんと再会しちゃったら地獄ですね。

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