4. 番外編�A(1/3)
アメリカに着いたあたしは入国審査を終え、搭乗前に預けた荷物が来るのを待っていた。
ベルトコンベアの上を流れてきた自分のキャリーケースを約半日ぶりに目にした瞬間、ぶわっと色んなことを思い出して、顔が熱くなる。
『それ見て、思い出してね。俺のこと』
そう言った村瀬の策に、まんまとハマっている。このキャリーケースに手をついて、後ろから抱き締められながら、頭が真っ白になるくらい気持ち良くさせられた。
『好きだよ、“葉月“…』
初めて呼ばれたあたしの名前。村瀬に呼ばれて嬉しくないわけがない。耳元で囁かれた優しい低い声に、背筋がゾクゾクするのが止まらなくて、あっという間にあたしは達してしまった。
あの瞬間、脳みそまで溶けてしまいそうだった。本当に好きな人に抱かれるのってこういうことなんだと、身体が覚えてしまった。
この仕事が終わって日本に帰国したら、またあんなふうに村瀬に甘く抱いてもらえるんだろうか…?
いや、2週間ぶりに会うわけだし、もっと激しく…?
…って、あたしってば…!
なに考えちゃってるの…!
いけない妄想を強制的にシャットアウトしながら、あたしは熱くなった顔を手で扇いだ。
◇
次の日。展示会のブースの前でタブレットを眺める。今日のスケジュール、ディスプレイされている製品の情報、顧客のリスト、一つ一つ頭の中に情報を整理する。
カシャ…ッ!
ふいに、目の前でスマホのカメラの音が聞こえて。顔を上げると、そこには営業として参加している神島くんがいた。
「おはよー、檜山」
「ちょっと、なに勝手に人のこと撮ってんのよ」
「村瀬に送ってやろうと思って」
「─っ…!? な、なんで、村瀬に…!」
予想外の回答に思わず動揺する。
「へぇ。檜山がそんな顔するなんて、村瀬、愛されてんなぁ…」
そう言って、神島くんが意味深な目でニヤニヤとあたしを眺めた。
「その調子だと、うまく行ったんだ?」
「な、なんのこと…っ」
「しらばっくれても駄目。村瀬と付き合ってるんでしょ?」
「─…っ、いや…、そ、その…っ」
「ふふ、おめでと」
そう言って、神島くんが笑った。それは、からかうような笑みではなく、本当に喜んでいるようだった。
「な、なんで…、わかったの…」
「営業の洞察力…?」
「う、うそ…」
「まぁ、半分はウソ。村瀬から相談受けてたからね」
「そ、相談…?」
「うん。村瀬のエッチが下手だったせいで、檜山に逃げられてるって」
「─…っ!? ち、違うから…!!」
思わず大声を出したあたしに、周りの人が驚いたようにこちらを見る。あたしは慌てて口を塞いで、神島くんを睨んだ。
「まぁ、うまく行ったなら良かったよ。村瀬いい奴だから」
「…いい奴なのは、ずっと前から知ってる」
そう答えたあたしに、神島くんはもう一度微笑んだ。
「ね、檜山」
内緒話するような神島くんの仕草に耳を近づける。
「アイツ、めちゃくちゃ檜山のこと好きだから、夜がしつこくても許してやってね」
「──…っ!?」
その言葉に、あたしは神島くんの頭をベシッと叩く。
「え、避けてたのは、そういうことじゃないの…?」
「違う…っ!!」
大声でそう否定したあたしは、もう一度周りの人の注目を浴びた。
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