3. 番外編�@(1/3)
昨日、気持ちを伝え合った俺達は、無事に付き合い始めた。昨夜は甘い時間を過ごし、今は幸せの絶頂にいるはずで、事実、ほんの数秒前まで、俺はその中にいた。
だけど今、俺は初めて訪れた檜山の家で、愕然としている。
「なにこれ、檜山…」
「えっと…、出張の準備…?」
部屋の真ん中に広げられたキャリーケース。衣類や小物などが周囲に並べられ、どう見ても荷造り途中だ。
「いつから…?」
「月曜日…」
今日は土曜日だ。月曜と言うなら、それはもはや明後日に迫っている。
「ちなみに、どこへ…?」
「ア、アメリカ…」
気まずそうに檜山がそう答える。日本ですらない。どういうことなのかと檜山を睨むと、檜山はふぃっと視線をそらした。
◇
昨夜は金曜だったこともあり、檜山はあのままうちに泊まった。週末も一緒に過ごしたいなと思ったのだが、檜山が帰らなくてはいけない用事があるというので、半ば無理矢理言いくるめて付いてきた。
「アメリカって…、何日間…」
「えっと…、2週間…」
「に…っ」
海外出張なら2週間は決して長い期間ではない。だけど、俺等は昨日付き合い始めたばかりだ。しかも散々避けられた挙げ句にやっと付き合えたというのに、いきなり2週間も離れ離れだなんて一体何の仕打ちなのか。
「昨日書庫で会わなかったら、俺のこと避けたまま、何も言わず行くつもりだったの、これ」
「いや…、いつまでも避けてちゃ駄目だとは…思ってたんだけど…、気付いたら出発の日が近づいていて…」
せっかく問題が解決したと思っていたのに、その裏でまさかこんな爆弾を持っていたとは。
「お前、俺のこと好きなくせに、俺に対して酷すぎる…」
そう言った俺は、心の中でこぼれる涙に目を瞑って耐える。どんな部屋に住んでんのかなとか、ここに来るまでわくわくと期待した気持ちは、もはや跡形もなく消え去っていた。
◇
「檜山と付き合うってこういうことなんだと思って、俺、ハート強くしとく…」
少し落ち着いた俺は、もはやどうにもならない現実を仕方なく受け入れる。
「ご、ごめん…」
もちろん、帰って来たらたっぷり穴埋めをするという言質は檜山から取った。
「ちなみに、アメリカは何しに行くの」
「毎年、この時期に大きな展示会があるの。うちの会社もブースを出すし、あとは市場の調査と、顧客への挨拶回り、ライバル会社の動向も探らないと…」
そう話す檜山は、職場で見せる『真面目で格好いい』檜山だ。5年間、俺はこの檜山を近くで見てきた。
企画部のエースの檜山。しかも、北米市場といえば檜山の担当だ。それは行かなきゃいけない大事な仕事なのだろう。
「気を付けて、頑張って来いよ」
そう言った俺を檜山は少しだけ見つめて。
「ありがとう」
と答えて、笑った。
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