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日付がとっくに変わったころ、家の前で車が止まる音がして。

少しすると向かいの部屋の灯りが付く。

蜜柑は今日も、あいつに抱かれてきたんだろうか…

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蜜柑は俺の幼馴染みだ。

隣の家に住んでいて、蜜柑の部屋と俺の部屋は丁度向かいで、窓を開けて手を伸ばせば届くほどの近さになっている。

そんだけ近いもんだから、嫌でも互いの生活はわかってしまうし、現に今夜も、日付が過ぎるような遅い時間に蜜柑が帰ってきたのを知るハメになっている。

蜜柑には付き合ってるヤツがいる。半年くらい前から付き合い出して、社会人で大人な人だって聞いてた。

蜜柑だって大学生だ。付き合って半年も経てばそれなりの関係なんだろう、今日のように遅く帰ってくることも週に1度程度はある。

それでも、律儀にその日のうちに送り返してくるなんて、一応いいヤツなのかな、なんて思ってた。

…最初は。

それには事情があるんだってことを蜜柑の口から知ったのはつい最近のこと。

「蜜柑っ」

俺は窓を開けて、向かいの部屋に向かって声をかける。すぐに窓の向こうに人影が揺れ、窓が開いて蜜柑が顔を出した。

「まだ起きてたんだ。なんか用事?」

「や、別に。随分と遅い帰りだと思って」

「浩紀には関係ないでしょ」

蜜柑はふいっと横を向いて冷たく言い捨てる。

「まぁ…な。でもあんま遅いと、向こうの奥さんと子供が可哀想じゃん」

そう俺が軽く嫌味を言うと、蜜柑の表情が曇った。

そう。蜜柑が付き合ってる男には奥さんと子供がいる。つまり、世間で言う不倫という関係だ。

決して派手ではない、どちらかと言えば真面目な性格の蜜柑が、不倫なんて…と思うが、蜜柑は付き合ってだいぶ経つまで、向こうに家庭があるなんて知らなかったようで納得がいった。

ただ、てっきりすぐに別れるのかと思いきや、知ってしまってからも関係は続いている。

それが俺には理解できなかった。

だいたい、まず第一に、結婚して子供までいる男が他に女を作るなんて、俺には考えられない。一生、こいつだけを愛し続けられる、そう思う相手だから結婚するんじゃないのか?

それとも、そんな考えは子供の幻想に思えるのだろうか…

蜜柑も蜜柑だ。別れるべきなのはわかってるだろうに。そこまで好きになる魅力があんなオヤジにあるのか、と思う。
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