1/4
土曜日から、及川くんのことを考えてばかりだ。考えないようにと思うのに、気付くと及川くんの顔が頭に浮かんでいた。
「おーい、緑野…っ」
目の前10cmの至近距離で手を振られ、我に返る。
「あ、ごめん、鈴木くん。なに…?」
「字、ミミズ。何書いてんの」
そう言われて自分の手元を見てみれば、確かに文字とは呼べないミミズのようなものを書いていた。
慌てて消ゴムで消す。
今日はあたしが日直で、鈴木くんは日誌を書くあたしに付き合って残ってくれている。人を付き合わせておいて、ミミズを書いている場合ではない。
「なんかさ、今週に入ってから変だろ」
「そ、そんなこと…ないけど」
「さっきのリーディングで当たった時も変だった」
「え…?」
「和訳、速すぎ。いつももっとゆっくり訳してやってるくせに、今日のあれは完全に緑野ペースだろ」
「そ、そうだった…?」
「うん。みんな目が点で、俺は面白かった」
そう言いながら、鈴木くんは笑った。
[ 1/4 ]
←Prev | 目次 | TOP | Next→