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「緑野サンってさぁ、男嫌いでしょ」
背後から突然そんな声が聞こえて。振り向くとそこに、最近隣のクラスに転校してきた男の子が立っていた。
「な…っ、突然、何…?」
「俺のこと知ってる?」
「知っ…てるけど…」
「お…、意外。男子に興味なさそうなのに」
確かに、興味はない。
が、彼は今ちょっとした有名人なのだ。
まだ転校してきてひと月も経っていないけれど、季節外れな転校生が異様にカッコいいと、主に女子の間で噂の拡がり方が尋常ではなかった。
あれだけ話題に挙げられていたら、噂に疎い私でも気付くし、うちの学年で彼を知らない女子はいないのではないだろうか。
「クラスの男子が言ってたけど、緑野サン、すげー頭いいんでしょ。入学以来、学年トップから落ちたことないって」
「え…、うん」
クラスの男子…
おおかた、想像はつく。
勉強ばっかりで外見はダサくて終わってるとか、そんなような噂話でもしていたのを聞いたんだろう。
「そんな男嫌いな緑野サンに、一つ提案があるんですけど」
「あのね。私、別に男嫌いってワケじゃ…」
「ゲームしようよ」
「は…?」
「来月の期末試験、勝負しよ。俺が勝ったら、付き合ってよ」
「はい?」
「俺が負けたら、パシりでも下僕でもなんでもするってことで。はーい、約束」
「ちょっ…!?」
勝手に人の腕を掴んだかと思ったら、強引に指きりげんまんをされた。
「じゃあね」
「な…、待…っ!」
振り向くこともなく、ヒラヒラと手を振って彼は行ってしまった。
"付き合う"って言った…?
私と…?
あんな軽そうな男の子が…?
そんなバカな…
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