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「あ…、蜜柑ちゃん、見てコレ」
「うん?」
「来週末、お祭りだって。花火やるっぽいよ」
「ほんとだ…」
「行こうか」
「ううん」
「コラ、おまえ彼女だろうが」
彼女…
果たして私は彼女と言っていいんだろうか…
及川くんのことが好きかと聞かれたら、私はそこまで身のほど知らずではない。
「5時に迎えに行くから、浴衣着てきて」
「勝手に決めないでよ…」
「着てよ。せっかく可愛くなったんだから」
大きな手があたしの頭を撫でて、嬉しそうな顔で笑う。
またそんな笑顔で説得してきて。
ずるいなぁ、この人は。
でも、浴衣か…
去年、お母さんが買ってくれたのが家にある。そんな可愛い柄、あたしに似合うわけないよって言って、まだ一度も袖を通していなかった。
着たら、お母さん喜ぶかな。
「じゃあ決まりね。5時に迎えに行くから」
「う…、うん。え?迎え…?」
「大丈夫。ちゃんと優等生な俺で行くし」
「だ、大丈夫って…、え?」
「大丈夫、大丈夫」
その日、あたしがいくら抗議しても、及川くんは笑顔で大丈夫を繰り返し、あたしの抗議が受け入れられることはなかった。
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