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「緑野先輩…」

「え…っ」

驚いて、先輩がこちらを向く。

「すみません。見ちゃいました。隣の部署なんですけど、僕のこと、知ってます?」

「小松川…くん」

覚えてもらえていたとは、意外だ…

「さっきの、木原部長ですよね」

「…っ」

「何をしようとしてたかは、まぁ…聞きませんが」

緑野先輩の頬が赤くなる。初めて見る表情に、胸がくすぐられる。

「まずくないですか。不倫ってことですよね」

「何が…言いたいの」

威嚇する、子猫みたいな瞳。

「黙っていますから、僕と付き合いませんか」

「な…っ」

「先輩みたいな可愛い彼女、欲しかったんですよね」

「バカにしてるの…?」

「まさか。本気です。バラされたら、困るんじゃないですか…?」

そう言って、彼女に微笑む。

当惑した表情を見せながらも、先輩は小さく、わかった、と答えた。



その夜、彼女をバーに誘った。

「さっきから、なんでそんな不機嫌な顔なんですか」

答えることなく、ぷいっと彼女はあちらを向いた。

「木原部長の前ではあんなに可愛く鳴いてたくせに…」

「な…っ!」

真っ赤な顔がこちらを向く。

「いつから部長と付き合ってるんですか」

「は、半年…前から…」

「へぇ…。そんなに好きなんですか。奥さんいるってわかってんのに」

コクンと、彼女は頷いた。

緑野先輩にこんなに好かれている木原部長に少なからず嫉妬心はあったが、それよりも、いじらしい彼女の表情を愛しく思った。

「僕ね、幸福を呼ぶ男って言われてるんですよ」

「幸福…?」

「そ。なんでかっていうと、俺と付き合った女の子は、何故か本命の男と結ばれるみたいなんです」

「え…」

「だから先輩も大丈夫ですよ。僕と付き合ってる間に、木原部長と結ばれると思いますよ」

そう言って、俺は彼女に笑いかけた。

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