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「先生…?」
「怖いですか?」
「いえ…」
先生の口調は変わらない。いつもどおり、優しくて落ち着いたトーンのままだ。
「少し移動します。失礼しますね」
「ぅわ…っ」
お姫様抱っこだ。
「せっ…先生!?」
「突然すみません。ほんの数歩です」
言葉通り、数歩移動すると先生はあたしを静かに降ろした。ふわっとしたシーツの感触がお尻に触れ、ベッドの上だと気付く。
「失礼…」
その言葉とともに、先程拘束された腕が頭上に優しく押さえつけられる。
ギシ…という音がして、仰向けのあたしの上に先生が覆い被さる気配を感じる。
「せ、先生…?」
「お父上様がおっしゃっていました」
「え…?」
「いまや宝生院家は蜜柑さまに頼るほかないと。この言葉の意味、わかりますか」
「あたしの…婚約の話。約束通りこの話が叶えば、宝生院グループは救われる」
「そう。では、貴方が自慢の妻となるために必要なものはなんでしょう?」
「おしとやかで…綺麗で、頭もよくて、料理が上手で…」
「そうですね。そう習ってきましたね。その通りの女性に育ちつつあります」
「先生…?」
「でももう一つだけ、相手を魅了する強い武器があるんです。この授業ではそれを養います」
そう言うと、あたしの唇に柔らかいものが触れた。
それは、先生の唇だった。
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